日本人インフルエンサーが交通事故死… バンコクの「超便利だが危険すぎる」移動事情

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「ヘルメットかぶりたくない」問題

 死亡者が多い背景として、ヘルメットを被る人が少ないことが指摘されている。一応、タイでもヘルメットの着用は義務づけられており、バイクタクシーの場合は運転手の多くが被っている。一方、乗客の9割以上が被っていない印象だ。仮に乗客全員がヘルメットを被っていたら、死者は5,000人以上減るという試算もあるのだが。

 一時、警察も乗客のヘルメット着用をかなり厳しくチェックしていた。しかしバンコクは暑い時期が長い。バイクタクシーに備え付けのヘルメットは、他人の汗が沁み込んでいるために、敬遠されがちだ。現在では警察のチェックも甘くなってきているのが実情だ。

 先の証言からもわかるとおり、バンコクの人々がバイクタクシーに頼る理由は渋滞、そして便利さだ。

 バンコク経済圏の人口は1,000万人を超えるといわれる。政府はBTSや地下鉄の新路線建設や延伸を進めているが、渋滞は一向に解消されない。前出のTさんが住む新興住宅地のように、自前の足での通勤を前提にした分譲住宅も少なくない。

「見栄」が渋滞を生む?

 もうひとつ、タイの「階級社会」が渋滞を生じさせていると指摘する専門家は多い。一流企業に就職すれば、ローンを組んで車が買える。マイカーを持つことはステイタスなのだ。電車通勤なら1時間の道のりであっても、あえてマイカー通勤を選んで2時間かけて通う。そうした行動によって渋滞が発生する。車で通勤をしたいがために早起きをする人もいる。睡眠時間を減らしてでもマイカー通勤というステイタスを誇示したいのだ。

 渋滞対策として、昨年、政府はバンコク市内にマイカーで乗り入れる際に料金を課す計画を発表した。その収入を高架電車や地下鉄に投入し、運賃を半額近くまで値下げする方針を打ち出した。電車利用を促す政策である。しかし反対意見も多く、実施が危ぶまれている。電車運賃が下がっても、マイカー組はステイタスを手放したくないため、電車通勤に移行しないという意見も根強い。

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