「日本製鉄」買収は絶望的で「得をしたのは米政府とUSスチール」…「正義はどこにあるか」だけでは見誤る“巨額買収劇”の真相

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グローバル資本主義の終焉

 買収放棄の期限である2月2日を前に、政権はバイデン氏からトランプ氏の手に渡ることになる。そこでトランプ政権に対する“外交交渉”を日本政府に期待する声も高まっているのだが、

「国益を考えたときに、本当にそれは国がやるべきことなのかは疑問です。国内世論は完全に“日鉄擁護”になびいていますが、日鉄はこの数年、呉、鹿島、和歌山、北九州の高炉を一部休止することなどによって復活し、最高益を更新し続けるようになった企業。見方によっては、リストラで国内の雇用を切り捨てることによって得たお金で、今度はアメリカに莫大な投資を行おうとしている面もあるわけですから、日本政府が国を挙げて支援するのは筋違いではないでしょうか。グローバル資本主義が転換点を迎えて久しいことを理解しなければなりません」

 いずれにしても、日鉄にとっては買収成立をアテにはできない状況が続く。そんな同社は今後どこに成長戦略を見出していくのか。

「USスチール買収完了を条件に解消する予定だった欧ミタル社(世界粗鋼生産ランキング2位)との合弁事業がどうなるかも含めて、米国での事業拡大の道が断たれたわけではありません。ブラジルや成長市場であるインドにも同様の合弁会社を持っている。一方、世紀の買収案件で躓いた以上、橋本英二会長が描いていたグランドデザインの抜本的な見直しは避けられないでしょう。USスチール買収計画発表後に打ち出した中国・宝山鋼鉄(世界1位)との合弁解消や韓国・ポスコ(世界7位)の保有全株売却などにより、日鉄は米国やインドに経営資源を集中させる方針でしたが、果たしてその戦略をどう立て直すのか。フレンド・ショアリング(同盟・友好国に限定したサプライチェーン構築)の“限界”を今回のUSスチール買収失敗は見せつけたわけで、少なくともビジネスは、感情論や『正義はどこにあるか』という観点で見てはいけない。現在の世論や報じられ方を見ていると、冷静さが欠けているような気がしてならないのです」
※世界粗鋼生産ランキングは世界鉄鋼協会調べ、2023年実績。

デイリー新潮編集部

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