8750円のボラ子を買って「カラスミ」を作ってみた! 気になるお味は?(中川淳一郎)

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 よわい51にして新たな趣味を獲得しました。カラスミ作りです。コレは皆さんにもおススメの趣味です。

 11月上旬に市場へ行ったら鮮魚店の店頭には黄色やオレンジの魚卵が並んでいる。ボラの真子(まこ)です。これを見て、自分でも日本三大珍味・カラスミを作ってみたくなり、「コレ下さい!」と中型サイズの真子を指さしました。重さを量ると価格は8750円! 吐いた言葉を飲み込むわけにもいかず店主にカラスミの作り方を聞いて、その日からカラスミを育てる人生が始まったのでした。

 家に帰り妻に真子を見せたら「えっ……、何コレ……」と訝しげな表情を浮かべられ、値段を聞かれて答えたら「ヒーッ!」と目をおっぴろげて仰天。私の突飛な行動に対して明らかに困惑しているようでした。

 さて、カラスミの作り方ですが、かなり簡単です。しかし、根気と愛情が必要です。まず、タッパーに一腹の真子を入れ、海水から取った塩を真子が隠れるまで入れます。ネットで作り方を見ると、3日間漬ける、とあったのでそのつもりでいました。

 その晩、ミシュランを獲得した豆腐料理店へ妻と行ったところ、奇しくもカラスミ餅が出て来た。ウマい! 店主にカラスミを作り始めたことを伝え、工夫を聞いたらこう言いました。

「塩に漬けるのは1日でいいです。干す時は酒を塗ってください。ひっくり返す時も酒を塗ってください。日本酒、ワイン、焼酎、なんでもいいですが、ブランデーが一番おいしいです」

 名人から秘訣(ひけつ)を聞いてがぜん、気分が乗ってきたのに加え、妻もカラスミのウマさを知ってくれたため、「早く食べたいね~」とのんきに言う。翌日、塩漬けにした真子からは大量の水が出ており、表面は少し硬くなっていました。塩を洗い流し、薄い塩水に1時間ほど入れて塩抜きをし、その後焼酎をかけてしばらく置く。

 続いて干物作り用の網に入れて干し、4時間後に裏返す。17時になり、日が沈みかけたらふたの付いていないタッパーに入れ、冷蔵庫で保存。あとは毎日朝起きたら網に入れ、焼酎を塗り、ひっくり返すルーティンが続きます。そして8日間干したら十分に硬くなり、見事な黄金色のカラスミが完成。

 コレがウマかった! 妻も感動し、以後、3時のおやつにカラスミ餅を食べ続ける日々が来たのです。ペペロンチーノにはすりおろしたカラスミが味に深みを与えます。ご飯にも同様にかける。相性がいいのはしらす干しです。

 かくしてカラスミ作りに目覚めてしまった私は、それに飽き足らず、その後はボラ釣りにも行くように。自宅から車で25分ぐらいの海にボラの大群がいつもいる、という情報を友人が教えてくれたのです。しかしながら釣れるのはオスばかりで、真子は取れず。どうやらボラってオスの方が多いらしく、だからメスのお腹に入っている真子がそこまで高いわけです。

 その後、鮮魚店で魚卵を見ると買ってしまう病になり、今は大量のスズキの真子をカラスミにしています。こちらは600円。これも十分ウマい。サワラやタイの真子もカラスミにできます。あと、究極的にラクなのは、タラコをただ干すだけ。これもウマい。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2025年1月2・9日号掲載

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