開戦からまもなく3年…戦略的見地では「ロシアの大敗北」と言える理由 兵士の練度は低く、戦車は“敵に背を向けて遁走”の目を覆う実態
「鹵獲」の大きな戦果
「なぜロシア軍の戦車が不足しているのか、謎を解く鍵はORYXが発表している《534台の鹵獲》です。鹵獲とは敵軍の兵器を奪い取って自分たちが使うことを意味します。実は日本など一部の国を除き、世界の戦車生産国は戦車の新規生産には消極的なのです。新しい戦車を生産するより、現用の戦車を改良し、現代の戦場で通用するよう“アップデート”するほうが効率的です。さらに戦場で故障、破壊された戦車は救出して現地で修理すれば、再び貴重な戦力として投入することが可能です」(同・軍事ジャーナリスト)
アメリカやイギリス、フランス、ドイツといったNATO(北大西洋条約機構)の主要加盟国は、戦場で被害を受けた自軍戦車の救出を重視し、そのノウハウを積み重ねてきた。
「ウクライナ軍は緒戦で深刻な兵器不足に直面しましたから、使えるものならロシア軍の兵器でも何でも使いました。そもそもウクライナは東西冷戦下でソ連軍の兵器を製造し、ワルシャワ条約機構軍の一員としてNATOと対峙してきたのです。ウクライナ軍が使ってきた兵器はソ連製で、ウクライナの戦車兵はロシア軍の戦車のほうが容易に操縦できます。こうしてウクライナ軍は自軍やNATOから提供された戦車が破壊されると回収に力を注ぐだけでなく、ロシア軍の戦車を破壊してもなるべく鹵獲しようと知恵を絞ってきたのです」(同・軍事ジャーナリスト)
ボランティアの活躍
ウクライナでは自軍の戦車が故障や破壊されて動かなくなると、後方支援部隊が回収牽引して最前線から脱出させる。安全な場所までたどり着くと、そこにはボランティアの有志が集まっているという。
「ボランティアに参加する人々は、例えば農民です。彼らは自分たちのトラクターを使って壊れた戦車を修理工場まで運びます。ウクライナには自動車産業が集積していて、優秀なエンジニアがウクライナ軍の軍人として徴用されています。彼らが工場で戦車を修理して最前線に送り返すわけですが、このシステムはロシア軍の戦車を鹵獲することにも使えます。そして、なぜかロシア軍は破壊された自軍戦車を救出することには無関心で、そのまま置き去りにする“伝統”があるようなのです」(同・軍事ジャーナリスト)
つまりロシア軍の戦車は破壊されて動かなくなると、中にいたロシアの戦車兵は戦車を捨てて逃げてしまうのだ。
「重要なのは、ウクライナ軍がロシア軍の戦車を破壊すれば、敵の戦車を減らした『マイナス1』ですが、その戦車を鹵獲して自分たちで使えば『プラス1』になるということです。合計でロシア軍に戦車2両分の損害を与えたことになります。こうしたことが積み重なり、ロシア軍は膨大な数の戦車を失ったと考えられます」(同・軍事ジャーナリスト)
ロシアに戦車の量産は不可能?
世界の戦車生産国は、新型の開発・生産に消極的だと前に触れた。ロシアも同じであり、失われた戦車の補充は難しい。
「コストを無視すれば、新型の戦車を開発・量産することは可能です。それでもロシアは無理でしょう。戦車の車体やエンジン、砲塔なら生産できるかもしれません。しかし射撃管制に必要な弾道計算コンピューターや、照準に必要な高品質の光学機器は、経済制裁下のロシアでは入手が困難だと考えられます。中国経由で輸入したとして、戦車の生産には1両数億円という巨額の費用がかかります。現在のロシア経済はウクライナ戦争で表面的には活況を呈していますが、一部の軍需産業が盛んに稼働しているだけで、本物の好景気ではありません。戦費の負担も重くのしかかっているはずで、戦車を量産できるほど国内経済に強靱な足腰があるとは思えません」(同・軍事ジャーナリスト)
ロシア軍は東部戦線でウクライナ軍を撃破しているとの報道は多い。ウクライナ軍は昨年に越境攻撃を断行し、一時期はクルスク州の広い地域を占領した。だが今はロシア軍だけでなく北朝鮮軍の“人海戦術”の猛攻を受け、ここでも後退している。
[2/3ページ]