開戦からまもなく3年…戦略的見地では「ロシアの大敗北」と言える理由 兵士の練度は低く、戦車は“敵に背を向けて遁走”の目を覆う実態

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 昨年末の12月20日、ウクライナ国防省は公式のXアカウントで戦車戦の動画を公開した。上空から2両の戦車が互いを攻撃する様子が記録されており、非常にリアルで貴重な映像だ。うち1両はウクライナの第1独立戦車旅団に所属し、もう1両はロシア軍の戦車。国防省は《現代の戦争で戦車同士の戦闘は非常に珍しいものです。しかし、わが国の経験豊富な戦車兵はロシアのT-90戦車を退却させました》と戦果を誇った。

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 動画を見た軍事ジャーナリストは「ウクライナ軍の練度は高く、士気も旺盛。一方のロシア軍は練度が低く、士気も低いことが分かります」と指摘する。

「動画にはロシア軍のT-90が悪路を前進する様子が収められていますが、道のでこぼこで砲身が上下に揺れているのが分かります。これは戦車の専門家にとっては信じられない映像で、常識外れの整備不良を全世界に晒すことになりました。本来なら戦車の砲塔部分にはスタビライザー(安定装置)が取り付けられており、走行中でも水平を保つはずなのです」

 ウクライナ軍の戦車が砲撃を行うと、弾は外れる。国際法を完全に無視したロシアのウクライナ侵略に憤りを覚え、ウクライナ軍を支持している人は多いだろう。当たらない砲撃は歯がゆく見えるかもしれないが、どれほど訓練を積み重ねた戦車兵の操縦する戦車でも、百発百中の命中は不可能だ。

「注目すべきは次の展開です。初弾を外したウクライナ戦車ですが次弾は正確に命中させています。しかも走行中の戦車からの射撃でロシア戦車に命中させています。いわゆる走行間射撃で敵戦車を撃破しているのです。こうした事実からウクライナ戦車兵の実力の高さがわかります」(同・軍事ジャーナリスト)

ロシア軍戦車の甚大な被害

 その後、ウクライナ軍の戦車が果敢な砲撃を続けると、ロシア軍の戦車は戦場から離脱しようとする。

「その際、いきなり敵に背を向けて遁走するのです。戦車は前面の装甲が最も強化されているため、敵から逃げる際は、まず敵に正対してバックで下がるのがセオリー中のセオリーです。ところが動画を見ると、ロシア軍戦車はセオリーを無視し、いきなり反転して脆弱な車体後部をさらけ出し逃げています、優秀なウクライナ戦車兵はそこを見逃さず正確な射撃でロシア軍戦車を破壊します、この一連のロシア軍戦車兵の対応を見ると現在のロシア軍は訓練が全く不足しており、著しくレベルの低い兵士が多いことが推測できるのです」(同・軍事ジャーナリスト)

 動画のような戦闘を繰り返しているからだろう、ロシア軍の戦車不足は深刻な状況に達しているようだ。

 オランダに拠点を置く軍事専門のサイト「ORYX(オリックス)」はSNSなどに公開された最前線の画像や動画などを丁寧に分析し、ロシア軍戦車の被害状況を推計している。1月2日現在、オリックスはロシア軍戦車の被害状況を《3668両が破壊され、157両が損壊、373両が放棄され、534台が鹵獲された》と発表している。

映画会社が戦車を提供

 実は3668両でも控え目な数字と言ってよく、ウクライナ国防省は昨年10月の時点で9004両の戦車を破壊したと発表していた。

 イギリスのシンクタンクである国際戦略研究所によると、ロシア軍は旧式の戦車を含めると約1万両の戦車を所有していたという。オリックスの推計が正しければ、3分の1の戦車をロシアは失った計算になる。

 産経新聞(電子版)は昨年11月14日に配信した「映画撮影用の戦車を軍に提供 ロシアの国営会社 T55戦車、PT76戦車など」との記事でロシア軍の戦車不足を伝えた。

「元記事を配信したのは共同通信で、ロシアの大統領府が発表した内容を伝えました。それによるとロシア国営映画会社モスフィルムがプーチン大統領に《映画撮影用に保管していた28両のT55戦車、8両のPT76戦車のほか、歩兵戦闘車6両、けん引車8両を提供した》そうです」(同・軍事ジャーナリスト)

 モスフィルムの歴史は古く、ソ連時代はプロパガンダ映画の制作でも知られた。本物の戦車を国から提供され、撮影に使用。記事にあるT55戦車やPT76戦車は1950年代に開発、製造されたもので、最前線に投入することは無理でも、後方支援に使用する性能は充分にある。

 とは言え、映画会社が所有していた戦車であることは間違いない。ロシア軍の“台所事情”が苦しいことが分かる。

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