なぜ“嫌韓”はネットから消えたのか…一瞬にして潮目を変えた“世界的な大難”とは

国際 韓国・北朝鮮

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ウイルスがもたらした停戦協定

 反日政策を展開し続ける文在寅氏に対してはこの頃、嫌韓派は「今の反日は生ぬるい、もっとやれ! そしてさっさと国交断絶しようぜ!」といった論調になっていった。元々日本のネットは嫌韓派の発言力が強かったが、基本的には韓国大統領をバカにする傾向があった。それは「あだ名をつける」である。

 廬武鉉氏は「ノムタン」、李明博氏は「あきひろ」、朴槿恵氏は「クネクネ」、文在寅氏は「ムンムン」である。しかし、2022年5月に就任した保守派の尹錫悦氏については「ユンユン」などのあだ名は目立たない。それは同氏が親日的な姿勢を見せ、日韓の未来志向を掲げたからである。嫌韓派は韓国大統領、メディア、世論が反日に振れれば振れるほど怒りの養分が増し、ネットで積極的に韓国批判を展開する。だが、尹政権下の韓国に対しては批判するネタがなかったのだ。

 もっと言うと、2019年夏にあれほど盛り上がった嫌韓、そして韓国を嘲笑うムーブメントはこの5年ほどあまりない。最大の理由の一つは新型コロナウイルスである。何しろ、世界的なイシューになったため、嫌韓派も韓国に構っている場合ではなくなったのだ。となるとカウンターとしての親韓派も嫌韓派に対して言うことはなくなる。かくしてウイルスが両派の停戦協定をもたらしたのである。

ゴリゴリの反日政権誕生の可能性も

 尹政権は北朝鮮とは距離を置き、日本との関係を重視した。だからこそ嫌韓派も尹政権と2022年以降の韓国を批判する気にはなれない。親韓派にしても、日本からの韓国へのヘイト感情や批判には反応するが、韓国国内がそれほど反日になっていない以上、「韓国よ、もっと日本を批判しろ!」という根拠を失った。これがこの約5年の両派の「停戦」的な状況に繋がっているのである。

 しかし、戒厳令で国を混乱させたとし、尹大統領の弾劾案が可決するなど、尹政権が失脚した場合、現在の野党による反日政権に移行する可能性は出てきている。そして、文在寅政権のようにゴリゴリの反日政権が誕生するかもしれない。そうなった時、2019年以前のネット上の不毛な嫌韓vs親韓バトルが再燃する可能性はある。韓国の政情は日本のネット世論にも影響を与えるのだ。何しろ日本のネットメディアは日本と韓国の諍い勃発を待っているのだから。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ、佐賀県唐津市在住のネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』『よくも言ってくれたよな』。最新刊は『過剰反応な人たち』(新潮新書)。

デイリー新潮編集部

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