渡辺えりが語る「前代未聞の古希記念公演」と、相次いで失った「母親」と「母校」への熱い想い

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演劇そのものが「反戦」

「3年目の〈専修科〉時代、おカネを集めて、公演を打ったんです。わたしの台本で、近松門左衛門を脚色した『心中天網島』や、唐十郎さんの『少女仮面』など。これらは、当時、“舞芸”の講師だった兼八善兼さんの演出でした」(渡辺えり)

 そのほか、渡辺の台本・音楽・衣装で「時の過ぎゆくままに」なども上演。いうまでもなくジュリーのヒット曲がヒントである。さらには、オリジナル・ミュージカル「人魚姫」なども。

 卒業後は、劇団青俳の演出部などを経て、“舞芸”の同期生だった、もたいまさこ、光永吉江らと、劇団3(さんじゅうまる)を結成(当初は「2(にじゅうまる)」だった)。以後、渡辺えりは、劇作家・演出家・俳優として、日本演劇界を“爆走”する存在となっていく。その原点が、舞台芸術学院だったのだ。

「わたしが、いまやっていることは、すべて“舞芸”時代にやっていたこと、そのままです。作、演出、作曲、美術、衣裳、パンフ編集……全部、自分でやっていました。いまも、おなじです。この年齢になっても、こうしてやっていけるのは、“舞芸”のおかげだと思っています。それだけに、閉校は残念でなりません。コロナ禍以降、生徒が減ってしまったそうで、もうどうしようもなかったとは思いますが……」

 こうして、母親も母校も失う、そんな状況下で、渡辺えりは、古希記念2作連続公演に挑むことになった。

「たしかにわたし自身も、70歳直前で“孤児”になりました。でも、わたしはかねて、戦争を止められるのは女性だけだ、と思っています。いまだに戦火は絶えず、生きるのがつらい時代ですが、でも、なんとかして若い人たちに、演劇を通じて平和をつなげていきたい。そして、ひとたちが喜ぶ顔を見たい。そんな思いで、この2作を上演します」

 そんな渡辺の思いに共感して、豪華俳優が集結した。木野花、三田和代、黒島結菜、宇梶剛士、ラサール石井、室井滋、シルビア・グラブ……そのほか、渡辺えり作品ではおなじみの俳優もそろっている。その数、約40人。若手俳優は、オーディションで選考した。

「今回は、セリフや役を、新たに書き足しています。つまり、2作とも、前回のままの再演ではありません。いわば“ニュー・ヴァージョン”です。ですから、前に観ている方も、新たな思いでご覧になれると思います。ぜひ、多くの方に観ていただきたいと思っています」

 かつて渡辺は、自著『えり子の冒険 早すぎる自叙伝』(2003年、小学館刊)で、こう述べている。

〈私は演劇そのものが反戦であると思っています。「戦争反対!」と大きな声を上げなくても、演劇を作ろうとする心は、平和を願う心そのものだと思うんです。目には見えない人の「心」というものが何よりの「宝」であり、それを伝えるのが演劇だと思っているからです。〉

 公演は、1月8日初日~19日まで。22日に「りぼん」山形公演が1回ある。
(文中敬称略)

森重良太(もりしげ・りょうた)
1958年生まれ。週刊新潮記者を皮切りに、新潮社で42年間、編集者をつとめ、現在はフリー。音楽ライター・富樫鉄火としても活躍中。

デイリー新潮編集部

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