ネットで出会った妻の「闇」がヤバかった バッグにむき出しの札束、理由を聞くと涙を流し始め…

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彼女の過去に何があったのか

 あなたにバレたらやめるつもりでいた。というか、バレればいいなと思っていたと秋奈さんは言った。ときどき、1日にふたりと会うこともあった、相手のことが好きなわけじゃない、好きだとセックスはできないと秋奈さんは泣いた。

「僕も相当歪んでいると思っているけど、彼女のその発想がとにかくわからなくて。かといって彼女の心にぐいぐい入り込むこともできない。少しだけ彼女が言ったことをつなぎあわせると、子どもの頃から性被害に遭っていたみたいです。しかもおそらく身内から。彼女はそこから逃げるように勉強をがんばって、いい大学を出ている。仕事もできる。でも自分に自信がもてない。知らない男に求められることで、かろうじて自分を救おうとしていたのかもしれません。あるいは男たちに汚されることで自分を保っていたのかもしれない。もしかしたら男たちに復讐していたのか……。僕は彼女にとって、唯一の保護者みたいな位置づけだったようです」

 人生をリセットするためにも、カウンセリングにかかってみたらどうかと彼は勧めてみた。彼自身、試したこともないのだが、彼女には必要なのではないかと考えたのだ。ところが彼女は必要ないと言った。

「わかってるから。自分がどういうふうに世間からずれているのか、ずっと計算したり観察したりしながら生きてきたから。あなたにバレたから、もうやめられる。彼女はそう言ったあとで、『不快でしょう。離婚と言われてもしかたがないと思ってる』と。不快というよりショックでしたが、彼女には言えなかった。裏切られたという感覚はなかった。ただ、もっと早く何らかの手を打てなかったのかと自分を呪いました。彼女は『あなたには関係ないの、これは私の問題だから。でも心配させてごめんね』って」

僕にバレてよかったのかも

 その後、秋奈さんは見違えるように元気になっていった。ふと彼と目が合ってニコッと笑ったときの表情が前より格段に明るくなった。一方で、彼は彼女の長年の秘密を知ったことで、妙に苦しくなったという。

 ふと、もう28年も前になる「東電OL殺人事件」を思い出した。東京電力に初の総合職として就職したエリートの女性が、夜な夜な売春をしており、あげくに殺されてしまったという事件だ。仕事や家庭でのストレスから、彼女は自らを売っていたのだろうかと当時、思いを巡らせたことがある。

「僕もその事件についてはぼんやりと覚えています。妻と重ね合わせたこともある。でも妻が言うように僕にバレてよかったのかもしれません。僕自身はまだ釈然としないところもあるけど、そういう妻を受け止めていこうと思っていました。受け止められるのは僕だけだと信じてもいた。ただ、今は受け止め、受け入れ続けられるのか不安になっています」

 ふたりの間に性的な関係は今もないままだ。それが解消されたら、自分が妻に本当の意味で受け入れられたと感じるかもしれないが、強要はできない。このままだと自分の存在価値がわからないんですと、彼は小声で言った。

 ***

「僕も相当歪んでいる」と語っていた晶史さん。その壮絶な生い立ちは【前編】で紹介している。

亀山早苗(かめやま・さなえ)
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。

デイリー新潮編集部

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