泥遊びが嫌いで“虫に触れない”保育士も… 保育の現場で今何が起こっているのか【石井光太×汐見稔幸×高見亮平】

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「子どもファースト」の視点

高見 単純に保育士が人手不足状態である問題もあります。2026年には、数時間単位でどんな保護者でも自由に保育施設を利用できる「子ども誰でも通園制度」が始まりますが、これだけ保育士が不足している中、突然来た子どもを数時間だけ預かるという体制を敷ける保育園が本当にあるのか。もしかしたら、預けられた子が泣き続けたままお迎えの時間になるということだってあると思うのですが、お母さんとしてもこれで本当に「預けられてよかった」となるでしょうか。

汐見 今の保育士の数、保育園の大きさからしても、この制度が本当に実現するとは思えません。保育士を確保するために国がお金を出すとか、根本の問題を解決しないことには親も子も解放されないままです。従来の保育園の形に限らず、たとえば、「地域総合福祉センター」みたいなところをつくって、そこに「地域保育士」のような人がいる体制だっていい。いずれにしても、親が子を地域に対して上手に“放牧”できる制度をつくるべきであって、今はそれがすべて保育園頼みになっているのが問題です。保育士一人ひとりは来てくれる子どもをしっかり見てあげたいと思っていても、とても間に合う体制ではないと思います。

高見 地域に開けた保育環境が必要な時代ですね。一昨年に愛知県で、母親がスマホの情報に依存して追い詰められ、子どもを3人殺害してしまった事件がありました。このケースのように保育園に通っていないお子さんの場合、社会の目が届かないという課題もある。保育園や親の議論が先行しがちですが、「子どもファースト」の視点も忘れてはいけない。

汐見 そういう社会の課題を見つけて警鐘を鳴らしてきた石井さんは“社会のカナリア”のような存在だと思いますよ。「カナリア光太」と勝手に呼んでいますが、子どもや若者、そして親御さんたちには様々な悩みや課題があります。『ルポ スマホ育児が子どもを壊す』がまさにそうですが、社会がこうしたことを知り、議論するきっかけをつくってくださることが、世の中の「光」になるはずです。

〈前編の記事【「2歳児の6割がスマホを利用」「子守歌は“寝かしつけアプリ”」 急増する1歳からの「スマホ育児」の是非とは【石井光太×汐見稔幸×高見亮平】】では、育児のデジタル化が子どもに及ぼす影響について論じている〉

汐見稔幸(しおみ としゆき)
一般社団法人家族・保育デザイン研究所代表理事、東京大学名誉教授、白梅学園大学名誉学長、全国保育士養成協議会会長、日本保育学会理事(前会長)。専門は教育学、教育人間学、保育学、育児学。持続可能性をキーワードとする保育者のための学びの場『ぐうたら村』村長。著書に『教えから学びへ―教育にとって一番大切なこと』『汐見先生と考える こども理解を深める保育のアセスメント』『新時代の保育のキーワード 乳幼児の学びを未来につなぐ12講』など。

高見亮平(たかみ りょうへい)
現役保育士。全国保育問題研究協議会で事務局長を務め、全国の保育者や研究者とともに保育の研究を行っている。『文学で育ちあう子どもたち』を共同編集。『子どもをつくる4歳児保育』では自身の保育実践を具体的に紹介している。現在、2025年出版予定の単著『保育は毎日、あたらしい』(仮題)を執筆中。

石井光太(いしい こうた)
1977年、東京生まれ。2021年『こどもホスピスの奇跡』で新潮ドキュメント賞を受賞。主な著書に『遺体 震災、津波の果てに』『「鬼畜」の家 わが子を殺す親たち』『43回の殺意 川崎中1男子生徒殺害事件の深層』『ルポ 誰が国語力を殺すのか』『教育虐待 子供を壊す「教育熱心」な親たち』など。『ぼくたちはなぜ、学校へ行くのか。マララ・ユスフザイさんの国連演説から考える』など児童書も多い。『ルポ スマホ育児が子どもを壊す』(新潮社)はロングセラーとなっている。

デイリー新潮編集部

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