「2歳児の6割がスマホを利用」「子守歌は“寝かしつけアプリ”」 急増する1歳からの「スマホ育児」の是非とは【石井光太×汐見稔幸×高見亮平】
格差社会が親を追い詰める
石井 保育現場や家庭を取材していると、低所得世帯など、困難を抱えている家庭ほど、子どもが幼いうちから育児にスマホを使っていたり、あるいは親子ともにスマホに依存して会話がなくなってしまったりする割合が高い傾向にあると感じました。
汐見 「地域で子どもを育てる」という考え方が希薄化した今の社会では、各家庭に子育ての責任が集約されています。特にシングル家庭の負担は大きくて、働きながら三食分用意するなんて本当に大変なこと。家庭に全部背負わせているからこそ、「ちょっとスマホ見ててね」ということになるわけで、そういう親のことはとても責められませんよ。そしてひとり親ほど周りに頼れる人がおらず、スマホの情報に傾倒し、誤った情報を信じ込んでしまったりして追い詰められてしまう。格差が広がる中、子育てをすべて親に押し付けている社会の問題を大きく感じます。
高見 一部では、シッターさんや一時保育など、全てを抱え込まずにうまく外部に発注されているご家庭もありますが、これができるのはお金に余裕があるところだけ。所得が低いご家庭の場合は大きな負担を背負ったままになってしまうという面もあると思います。
汐見 たとえばフランスでは、いざという時に頼れる窓口が社会に張り巡らされていて、シングル家庭でも安心して子どもが育てられるようになっています。そう考えると、『スマホ育児が子どもを壊す』というタイトルの裏には、日本で広がっている格差社会が親を追い詰めている背景も含まれていると感じます。
石井 なるほど。今の日本は、社会全体で子どもを育てるという視点が欠けていると。そういえば、この本の新刊イベントで、映画『みんなの学校』でも有名な、大空小学校初代校長の木村泰子さんと対談したのですが、そのような問題は小学生の親にも当てはまるということをおっしゃっていました。
汐見 私の父は11人兄弟なのですが、それだけの子どもを産んだ大正生まれの母親も、経済的に豊かだったわけではありませんし、今の親より子育てが上手だったなんてこともありません。ではなぜ11人も産み育てることができたかというと、子どもがちょっとでも歩けるようになったら、朝晩以外は「外行って遊んどいで」というのが当たり前の社会だったからなんです。民俗学者の柳田國男が「群れによる教育」と言ったように、地域の子どもがみんな外に出てきて集まって、人と関わる力を身に得たり、自然がもたらす偶然に対処したり、手先の器用さを身に着けたり、失敗してもめげないレジリエンス(回復力)を培ったりと、社会で必要な力はみんな「家の外」で身に着けていたんです。今はこうした“地域社会への上手な放牧”ができなくなったから、育児が大変になっている。こんなことは歴史上なかったことで、「最近の親は~」という問題ではないのです。
ですから、現代ではどうしたらそのような「放牧」が実現できるのか。保育園が「放牧場」としての役割を担えるようになるにはどうしたらいいのか。こうした議論こそ、いま求められていることなのではないでしょうか。
〈後編の記事【泥遊びが嫌いで“虫に触れない”保育士も… 保育の現場で今何が起こっているのか【石井光太×汐見稔幸×高見亮平】】では、“放牧地”としての保育園の在り方や、デジタルネイティブ世代の親、保育士に求められることなどについて語る〉