「オーバーツーリズム問題」に“二重価格”は有効も…日本人は「安い国」になった事実を受け入れられるか
もう京都には行きたくない
「衰退途上国」の円安国・日本を目指して多くの外国人観光客が訪れている。日本人からすると外食やホテル料金の値上がりが激しいと感じるが、外国人にとっては激安価格である。この30年間で、外国人の多くの所得が上がったが、我々日本人は上がっていない。むしろ下がった。
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筆者(編集者・中川淳一郎)は、2000年からほぼ毎年タイへ旅行に行っていたが、現在の日本はちょうど15年前のタイのような空気感になっている。すなわち、外国人旅行客が「安いね~!」と高級ホテルに泊まり、高級レストランで食事をする中、地元民は安い食堂でメシを食べる。そんなタイですら、今の日本人にとってはキツい。当時1万円が3800バーツほどだったが、現在は2300バーツ程度にまで値上がりしている。
そして、「安い国」で発生するのが「オーバーツーリズム」「観光公害」である。札幌・小樽・東京・横浜・鎌倉・京都・大阪・広島・福岡など、現在日本の人気観光地はそれによって悩まされている。京都の状態がしきりに取り沙汰されるが、バスは大混雑だし、渋滞も激しいし、何より人だらけで風情も何もあったものではない。だから、京都のオーバーツーリズムに関する記事に対してはこんなコメントが並ぶ。
「混みすぎ。もう京都は行きたくない」
「昔の嵐山のあのわびさびのある風景を返してくれ……」
「昔は待たずに入れた店が今は行列ができていて、入ることができない」
「錦市場は外国人価格でもう行けない。数年前の大阪の黒門市場と同じ道を歩んでいる」
「地元の人間です。バスが動かず、本当に困っています。通勤・通学の人と観光客を分けて欲しい」
二重価格の導入を
こうした嘆きはありつつも、国内からは「自由経済なんだから、値付けは店の勝手。外国人観光客にバンバンお金を落としてもらいましょう!」という意見も。これは、完全に発展途上国側の人間の発想である。もしこれを支持するのであれば、「二重価格」を人気観光地の仏閣や神社、城などは導入してもいいのでは。もちろん富士山の入山料も。
現に、涅槃像で有名なバンコクの寺院、ワット・ポーの拝観料はかつて100バーツだったが、いつしか200バーツに上がっており、2024年初頭では300バーツになっていた。そしてタイ人は無料。同じことを日本もやっていいのだ。清水寺の拝観料は大人400円だが、日本人用入口と外国人用入口を分け、日本人は400円で、外国人からは2000円を取る。
すでにそうした動きを見せる自治体もある。兵庫県姫路市の市長は、入場料1000円の姫路城について、「2024年6月、外国人は30ドル、市民は5ドルにする」との案を提示。となれば外国人は12月25日のレートでは約4700円で、日本人は約780円となる。
長らく先進国として扱われてきた国の人間としての誇りがあった日本人は、各所を闊歩する外国人観光客を見て複雑な気持ちになっているはずだ。豊洲では1杯1万8000円のうに丼があったり、ニセコや小樽では海鮮丼が1万円近くしたりする。これらは正直日本の庶民には手が出ない。敗北感を抱かされた上に、観光客が多過ぎてかつての「自分の場所」が奪われたのであれば、何らかの措置を取る時期に来ている。それが「二重価格」なのである。
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