なぜポール・マッカートニーは「スーツケース」の一番上に大麻を入れていたのか 世界を震撼させた「成田で現行犯逮捕」裏話
「起訴猶予処分」ではなかった最終決定
実は「起訴猶予、強制退去」というポールの最終処分は、マスコミ向けの発表に過ぎなかったのだ。
「いまだから言いますが、最終決定は起訴猶予処分ではなく、ポールに対する上陸拒否だったのです」
と松尾が打ち明ける。
「この事件には3つの官庁がからんでいた。まず、大蔵省管轄の税関審査で大麻が発見された。税関は厚生省管轄の麻薬取締官事務所に連絡し、取締官がポールの身柄を押さえ、荷物を押収して捜査した。この間、法務省管轄の入国管理局が全くノータッチのまま事件が流れた。つまり、ポールに対する入国許可が下りていなかったのです」
法的には、ポールはまだ入国していなかったというのだ。入国していないのだから国内法も適用されず、ゆえに起訴も不起訴もないというわけだ。
「ポールは日本に入っていなかったのに、10日間も留置されていたという不思議なことになっていたのです。上陸拒否ですから退去命令も出ないわけで、ポールには前科もつかなかったのです。上陸拒否というのは理論上も稀有なことでしたが、ポールの経歴にも傷をつけずに済み、弁護士としては最高の仕事ができたということになります」(松尾)
妻の1億円イヤリング「紛失」騒動も
上々の結果に、2人の弁護士は銀座でシャンパンを4本も空けたという。
松尾が続ける。
「捜査も杜撰でしたね。麻薬取締官はポール一行のカバン十数個を押収し、本人のもの以外はホテルオークラに戻してきた。その中にあった1億円もするリンダ夫人のイヤリングがなくなっていて、大騒ぎになったのですよ。イヤリングを入れたはずのカバンには、入れた覚えのない衣類が入っていた。あれでは大麻が出てきても誰のカバンからなのかも分かりゃしません。慌てた取締官たちが事務所の廊下に新聞を敷いてポールのカバンをひっくり返し、結局、その中からイヤリングが見つかったのです」
音楽ライターの水上はるこは、来日時にポールの広報担当をすることになっていた。ポールの逮捕後は、ホテルオークラで日本の新聞の翻訳を任された。当時、オークラには、弁護士や英国大使館員らが多数出入りしていたという。
「大使館員たちは大スターのポールを逮捕したことに怒りを感じているらしく、『ポールを布団に寝かせるとはどういうことだ』などと言っていました。ポールが日本に上陸していない処分になるという話は、そこに出入りしていた人たちもよく言っていました。いまでも疑問なのは、なぜポールが自分のスーツケースに大麻を入れていたのか、ということ。スタッフの荷物に入れ、バレた時は彼らが身代わりになり、代わりに一生、面倒を見たりするのがこの業界の常識なのに」
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