“マトリ”の事務所を取り囲んだファンが「イエスタデイ」を大合唱 ポール・マッカートニー「成田で大麻逮捕」秘話
ポールのことを知らなかったのは所長だけ
16日の午後3時、ニューヨーク発のパンナム機で成田へ到着したポールは、税関で足止めを食らった。
情報通り、所持品から大麻が発見されたことが税関から事務所に伝えられ、主任情報官以下、5人の取締官が成田へ向かった。大麻が自分のものであることを本人が認めたため、午後8時前にポール・マッカートニーは現行犯逮捕され、手錠姿で中目黒の事務所へ連行された。
世界でも指折りのビッグスターの逮捕に、事務所内には緊張が走った。さすがにポール・マッカートニーの名は、ほぼ全取締官が知っていた。
「ポールのことを知らなかったのは当時の所長だけでした。『機動隊の出動要請も必要だし、報道対応もしなければ』という我々の制止も聞かず、所長はその夜、山梨へ出張に出かけてしまったのです。騒ぎに驚いて翌朝一番に戻ってきましたが、その夜、うちの事務所で警備の指揮を執っていたのは目黒署の署長ですよ」
ポールが到着した午後10時過ぎには、大勢のファンが事務所の周辺に集まっていた。
「事務所の周りを囲んでファンが歌うんですよ。高校生のグループがラジカセでテープを流して歌い出したのがキッカケで、その場にいたファンが『イエスタデイ』を大合唱し始めた。他にも何か歌っていたけれど、分からないね。私が知っていたのはその曲だけだから。芸能人を逮捕する都度、ファンが見に来たものだけれど、多くてもせいぜい数十人。しかし、表には300人くらいいた」(同)
ポールに怯えた様子はなかった
事務所には留置場がなく、有名人を逮捕した場合は警視庁本部に連れて行く決まりになっていた。警視庁は当時、建て替え中であり、ポールが留置されたのは西新橋にあった仮庁舎である。
深夜、ポールに手錠をかけて警視庁に連行した小林は、ポールのショーマンシップに感心したという。
「彼は特に怯えた様子はありませんでしたね。相手に嫌われないような表情や仕草を本能的に心得ていたのだと思う。取調べに対して、他人の悪口を言ったり、とぼけて見せたりする日本の芸能人とは対照的でした。我々に会っても、ニコニコ顔で『オハヨー』などと言う。『日本じゃ、オハヨウゴザイマスが正しいんだ』と教えてやりましたがね」
計11回の開催予定だったコンサートの前売り券10万枚が完売していたが、勿論、全て中止になり、ポール逮捕による損失は、5億円とも報じられた。
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