「藤井聡太七冠」再びの“タイトル独占”なるか 【2025年の将棋界展望】立ちはだかるのは“大器”“努力の鬼”“22歳の序列2位”

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名人挑戦権争いは混戦

 名人戦七番勝負は例年、4月に開幕する。

 藤井名人への名人挑戦権を争うA級順位戦は佐藤天彦九段(36歳)がトップを走っていた。ずっと居飛車党だった佐藤は近年、振り飛車を多く用いて好成績を残している。しかし佐藤は4連勝から2連敗。同成績で永瀬、佐々木勇気八段(30歳)、増田が同星で並び、大混戦の様相を呈してきた。次いで渡辺明九段(40歳)ら3勝3敗勢が続く。

 渡辺はかねて状態がよくなかった左膝の手術のため、1か月ほど競技生活を休むことになった。12月13日におこなわれたA級順位戦6回戦で千田翔太八段(30歳)と対戦中、膝の痛みがひどくなり、形勢互角の中盤戦で投了を余儀なくされた。渡辺は先日、膝の手術を受け、現在はリハビリに取り組んでいるという。渡辺の一刻も早い回復を祈りたい。渡辺は25年の棋士人生の中で、何度か逆境に追い込まれながら、復活を成し遂げてきた。対局に復帰すればまた、藤井の前に立ちはだかる強敵の一人となるだろう。

 名人位を通算5期保持すると、永世名人の資格が与えられる。江戸時代から数えて、19人目の永世名人資格者は羽生。その次の20世名人はまだ決まっていない。藤井は現在2期獲得。現在のA級では渡辺や佐藤が名人3期の実績を持つ。両者のいずれかが名人戦に名乗りをあげると、20世名人を争うという意味でも盛り上がりそうだ。

藤井、叡王戦でリターンマッチなるか?

 現在の将棋界の序列は、1位が藤井七冠。2位が伊藤叡王だ。両者ともに歳はまだ22歳と若いが、格としては東西の両横綱ということになる。

 両者のこれまでの対戦成績は藤井12勝、伊藤3勝、持将棋(引分)1局。前期叡王戦以来、両者の公式戦での対局はない。

 12月15日におこなわれた「SUNTORY 将棋オールスター 東西対抗戦2024」(準公式戦)の決勝戦には、藤井は西軍、伊藤は東軍のメンバーとして出場。そこで両者は対戦し、伊藤が勝っている。

 叡王戦は段位別予選が終わった。伊藤へのリターンマッチが期待される藤井は、今期はシードで本戦トーナメント(ベスト16)からの出場。そして1月8日、本戦1回戦で、八段戦を勝ち上がってきた増田と対戦する。棋王戦五番勝負だけでなく、こちらでも同じ注目カードが実現した形だ。
 
 勝率8割以上を誇る藤井といえども、4連勝して挑戦権を獲得するのは、そう簡単なことではない。将棋は先手番がわずかに有利なゲームで、公式戦の勝率はおおむね52パーセント前後で推移している。トップクラス同士の対局ともなれば、さらに先手のアドバンテージが大きくはたらく傾向にある。タイトル戦の七番勝負や五番勝負であれば、先手と後手は交互に変わる。しかしトーナメントの一番勝負では先手か後手かは振り駒によってそのつど決められ、後手番が続くこともある。「完全情報ゲーム」である将棋は理論上、運が介在しないゲームだが、振り駒だけは運としか言いようがない。

 叡王戦五番勝負は近年、4月に開幕している。もし伊藤-藤井の再戦となれば、また大変なフィーバーが起こるだろう。

 八冠復帰か、強敵たちの逆襲なるか。2025年も注目の戦いが続く。

松本博文(まつもとひろふみ)
将棋ライター。1973年、山口県生まれ。東大法学部時代、将棋部に所属し、在学中より将棋書籍の編集に従事。卒業後はフリーの将棋ライターに。日本将棋連盟などのネット中継にも携わる。著書に『ルポ 電王戦』『棋承転結』(いずれも将棋ペンクラブ大賞文芸部門受賞)、『藤井聡太 天才はいかにして生まれたか』など。

デイリー新潮編集部

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