「藤井聡太七冠」再びの“タイトル独占”なるか 【2025年の将棋界展望】立ちはだかるのは“大器”“努力の鬼”“22歳の序列2位”
2025年の将棋界の大きな見どころは、まずは藤井聡太七冠(22歳)の八冠再チャレンジだろう。
24年6月。将棋界の八大タイトルを独占していた藤井は、叡王戦五番勝負で伊藤匠七段(22歳)に2勝3敗で敗退。八冠の一角を崩された。
藤井は以後のタイトル戦では防衛を続け、七冠を堅持して現在に至っている。依然、無敵にも近い強さだ。しかし藤井の八冠再達成は、決して容易なことではない。藤井の前に立ちはだかる棋士たちもまた、強敵揃いだ。今年前半のタイトル戦と、そのライバルたちについて詳述する。【松本博文/将棋ライター】
王将戦は永瀬拓矢九段が挑戦
年明けの1月からは、王将戦七番勝負が開幕する。挑戦の名乗りをあげたのは永瀬拓矢九段(32歳)。藤井と多くの名勝負を重ねてきた、当代トップクラスの一人だ。
藤井と永瀬の通算対戦成績は、藤井18勝、永瀬7勝。タイトル戦では棋聖戦(22年)、王座戦(23年、24年)でぶつかり、すべて藤井が制している。23年10月、藤井は永瀬から王座を奪って八冠を達成。翌24年9月にはリターンマッチをしりぞけた。
一方、24年2月の朝日杯決勝では永瀬が勝利。朝日杯では初優勝を果たすとともに、藤井の5回目の優勝を阻止した。
藤井と永瀬にとって、王将戦は4回目のタイトル戦。七番勝負の2日制は初めてだ。永瀬はリーグのプレーオフを終えて挑戦権を獲得したあと、次のように語っていた。
「少し前から藤井さんと2日制を指したことないなっていうのに気づきまして。指したいなというふうには思っていたので。そこで結果を出すことができてよかったなというふうに思います。藤井王将と2日制を指していないということは、七番勝負を指していないということですので。これまでのタイトル戦が五番勝負でしたので、また少し準備の仕方が変わる番勝負になるんじゃないかなというふうに思います」
将棋界のトップクラスは誰でも、人並み外れた才能の持ち主だ。その上で結果を残すためには、たゆまぬ努力が求められる。努力家が多い将棋界の中にあって、永瀬は若い頃から「努力の鬼」と呼ばれてきた。藤井を倒すため、今回もまた持てる時間の許す限り、尋常ならざる事前準備を重ねて臨むに違いない。
棋王戦は増田康宏八段が挑戦
2月から開幕する棋王戦五番勝負では、藤井は増田康宏八段(27歳)の挑戦を受ける。
増田は幼少期から大器の呼び声が高かった。師匠である名棋士・森下卓九段(58歳)は、早くから増田の才能を激賞してやまなかった。
増田は2014年、16歳のときに四段に昇段。2016年に藤井が史上最年少14歳2か月で四段になるまでは、現役最年少棋士だった。今年2024年には順位戦でA級に昇級。名実ともにトップクラスの仲間入りを果たしている。そして棋士生活10年にして、満を持して、タイトル戦初登場も決めている。
藤井棋王への挑戦を決めたあと、増田は次のように語っていた。
「(相手のスキは)ないんですけど(苦笑)。ただ、持ち時間なくなってくると、ちょっと動揺される部分があるのかなと思うので。藤井棋王がなるべく苦しむような展開に持っていければいいなと」
「五番勝負は厳しいものにはなると思うんですけど、自分の力をしっかり出して臨みたいと思うので。タイトル戦も応援よろしくお願いいたします」
藤井と増田の対戦成績は、藤井5勝、増田1勝で藤井が勝ち越している。しかし藤井に対して11連敗していた伊藤が、叡王戦五番勝負を制した例もあるように、増田も流れに乗れれば、十分にチャンスはあるだろう。
棋王戦では、増田の師匠・森下は1994年度と96年度の2回、羽生善治棋王(現九段、54歳)に挑戦している。しかし羽生の堅塁を抜くことはできなかった。森下は羽生、増田は藤井と、同時代の絶対王者に挑む点で似ている。師匠の森下が実現できなかったタイトル獲得の夢を、弟子の増田がかなえることはできるだろうか。
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