徳川家康、きんさん・ぎんさん、森光子さん…「長寿の人」が食べていたモノとは? 世界が注目する「超健康食」
いつの時代も、私たちの最大の財産は先達の知恵である。人生100年時代に、いかにして健康長寿を実現するか。そのヒントも古人の食に隠されていた。徳川家康からきんさん、ぎんさんまで、専門家が長生きした偉人たちの食生活をひもとき、「超健康食」を紹介する。【永山久夫/食文化史研究家】
***
【写真をみる】森光子さんが取り入れた“食材”は? 「長寿の人」が食べていたモノ
高齢化に歯止めがかからず、街には年寄りばかりが溢れている……。
いまの日本には、「老いたる国」として悲観的な空気が満ちているように感じられます。これが私には不思議でなりません。高齢者で溢れているということは、日本が「長生きできる国」であることを物語っているに他ならないからです。実際、男女合わせた平均寿命は84.3歳と、日本は堂々の世界一です。長寿を実現している国、ニッポン。こんなに素敵なことはないではありませんか。
この考えは、なにも私の独りよがりではないと思います。韓国、中国、アメリカにフランス……。主に日本の食文化史を研究してきた私のもとには、いま海外から多くの取材記者さんが訪ねてきます。長寿をもたらしている和食の秘密は何か、どうすれば日本人みたいに長生きできるのか。みなさん、「日本人の食」に大いなる関心を持ち、憧れさえ抱いている様子です。
失われた30年と言われるように、いまの日本の産業はどれも振るわないようです。しかし、私たち日本人がいにしえから築いてきた食文化は、現在、間違いなく世界から注目を集めている「キラーコンテンツ」であると断言できます。
〈と、暗い日本に光を与えてくれるのは、食文化史研究家の永山久夫氏だ。齢92にして、なお調査・発信を続けている現役の研究家である。
日本の伝統食の魅力と効力を研究してきた永山氏は、その長年の功績が認められて平成30年度文化庁長官表彰を受け、その後もNHKの「チコちゃんに叱られる!」など、多くのメディアに出演し、食に関する啓発活動を行っている。
自身も「100歳で現役」を目指している真っただ中の永山氏は、古人たちの食の知恵にこそ、現代の日本人の長寿につながる鍵は隠されていると言う。以下は、和食研究のプロである永山氏お勧めの「偉人たちの長寿食」である。〉
日本人の長寿の礎(いしずえ)となっている和食は、2013年にユネスコの無形文化遺産に登録されて以来、その素晴らしさが改めて世界的に注目を集めるようになりました。先人たちが積み重ねてきた「和食」は、単なる「食」ではなく、長寿につながる「健康食」として位置付けられているといえます。
984年に朝廷に献上された、現存するわが国最古の医書「医心方(いしんぽう)」にはこう記されています。
〈気血を補う時は食物といい、病気を療す時は薬という〉
食事は「食物」であると同時に「薬」でもあるというわけです。事実、先人たちの食卓をのぞいてみると、現代の栄養学や病気の予防といった観点から考えても、極めて理にかなった食事をしていたことが分かります。
徳川家康が食べていた“イライラを防ぐ”食材
例えば、当時としてはかなりの長寿といえる数え年75歳まで生きた徳川家康。優れた戦略家として天下を手中に収めた家康は、食事に関しても計算ずくと評すべき「戦略飯」を実践していました。
家康は麦飯とみそ汁を好んでいました。大麦には不溶性食物繊維と水溶性食物繊維がバランス良く含まれており、整腸効果が絶大です。腸内フローラという言葉が注目されているように、近年、腸内環境を良くすることが心身の健康にとっていかに重要であるかが明らかになっています。腸には免疫細胞の約7割が集まっているため、麦飯は優れた「抗感染症食材」ともいえるわけですが、家康は大麦を水に一晩漬けてから炊くよう部下に命じていました。
そうすることでギャバ(γ-アミノ酪酸)が発生します。チョコレートに豊富に含まれ、神経伝達物質として機能するギャバには、精神を安定させてイライラするのを防いだり、安眠をもたらしたり、血圧を下げたりする効果があることが分かっています。家康は、人前で部下を𠮟りつけるようなことがない、冷静な人物だったと伝えられています。戦国時代を勝ち抜いた家康の沈着さは、「健脳食」であるギャバのおかげだったのかもしれません。
なお、家康は漬け物の塩味にまで口出しをしたといいます。しょっぱ過ぎてはいけないと。塩辛いものを食べ過ぎると喉が渇き、戦場でよい働きができないという事情があったようですが、塩分過多による高血圧を防ぐという意味において、家康のこの指示は「健康戦略」としても正しいものでした。
また、みその原料である大豆にはリン脂質の一種であるレシチンが豊富で、神経伝達物質の材料となり、記憶力の改善・向上に役立ちます。家康が、江戸幕府を開き、運営するのに成功した明晰な頭脳を保ち続けたこともうなずけます。
ちなみに、長寿の源の一つには“好色”が挙げられるようです。中世のイングランドで152歳まで生きたとされるトーマス・パーは、105歳の時に不義の子をもうけ、122歳で再婚するという驚異的な“性力”の持ち主でした。いくつになっても異性を意識することは精神的な張りを生み出し、長寿につながる。なお、パーの食生活は全粒粉の黒パンと野菜が中心で、スコッチ・ウイスキーの「オールドパー」は、この「パー爺さん」にちなんで名付けられたものです。
家康も生涯で妻妾合わせて17人の女性を愛(め)で、最後の側室をおいたのは68歳の時だったとか。大豆に含まれるアルギニンというアミノ酸は精子のもとになります。さらに、タカ狩りが趣味だった家康は、野鳥の胸肉をよく食べていました。そこには、カルノシンやアンセリンといった抗酸化成分、つまり老化予防成分が含まれています。この趣味も、いつまでも精力と“性力”を持ち続けた家康の若々しさを支えていたことでしょう。
[1/3ページ]