工藤公康が監督をして気付いた「部下に信頼されるコツ」 声を荒らげて叱った“手痛い失敗”から学んだ「選手との向き合い方」とは

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彼は少しでもチームの力になりたいと思って行動していたのに……

 ホークスには、全体練習が始まる前に行うアーリーワークという個人練習があります。アーリーワークに参加するのは、レギュラー以外やレギュラーでも調子が悪い選手たちです。

 ある日、このアーリーワークに1軍に上がって間もない中堅選手が無断欠席したことがありました。

 それに気付いた私が「どうして練習に出てこなかったんだ」と尋ねると、彼は少し戸惑いながら「今日は出られませんでした」と答えた。私は「君はレギュラーじゃなくて試合で打つ時間はないんだから、バッティング練習しないとだめじゃないか」と声を荒らげてしまいました。

 しかし、後になって他の選手から聞いたところ、彼がアーリーワークを欠席したのは腰を悪くしていたことが原因でした。腰の治療に行った後、自主トレをしてから球場に来たため、アーリーワークに参加できなかったのです。

 彼は少しでもチームの力になりたいと思って、彼なりに行動していた。それに、監督に直接「腰を痛めまして……」なんて言えば、戦力から外されてしまうかもしれない。

 私はそうした選手側の事情や心情も知らず、頭ごなしに彼を叱ってしまったのです。事情を知った私は直ぐに彼に謝りましたが、こんなことが続けば現場のモチベーションはたちどころに下がってしまいます。

「いつでも相談に乗る」と伝えるだけではだめ

 適材適所で選手を起用するためには、監督が選手の状態を把握しておかなくてはならないのは当然のこと。その上で、選手たちと上手にコミュニケーションを取るには、彼らのバックグラウンドも知っておく必要があります。

 いつ野球を始めたのか。出身地はどこで、どんな性格なのか。日々の生活で大切にしていることは。今、困っていることはないか。

 ただ、私がそれらを知りたいと思ったところで、選手がいきなり話に来てくれるはずもない。

 そもそも、16年までも選手には「いつでも相談に乗る」と伝え、コミュニケーションを取る姿勢は見せていたつもりです。しかし、現実には相談に来てはもらえなかった。

 考えてみれば、選手にとって直属の上司はコーチ。さらにその上の立場である監督には気も使うでしょうし、気軽に話しかけられる存在ではないのです。

 いくら「気軽にご相談を」と言っても、リーダーが話しかけてもらうのを待つだけのコミュニケーションにはおのずと限界があります。一方で、いきなり監督室に選手を呼び出して「君のことを知りたいから話してくれ」と言っても、本音を喋ってはくれないでしょう。

一人一人の選手にあいさつもかねて声がけ

 そこで私は、毎日の練習前、グラウンドで一人一人の選手にあいさつもかねて声がけをするという方法を考えました。その場で長時間粘ったりせず、選手にかけるのはあくまで“プラスひと声”。例えば「今日も頑張れよ。頼むな」くらいです。まずはそうして信頼関係を構築しようと考えたのです。

 それだけでも継続していると、選手の反応でその日の調子が分かるようになりました。あまりノッていない選手は目をそらしたり、作り笑いがひきつったり。全選手にあいさつをしながらそうしたささいな“サイン”を見逃さず、後でゆっくり話す時間を取るようにしたのです。こうした努力を続けるうちに、選手も次第に心を開いてくれるようになり、結果的にバックグラウンドを話してくれる選手が増えていきました。

 ただ、選手の話をじっくり聞くからといって、彼らがやりたいことを何でも許容するというわけではありません。大切なのは、あくまでも選手がチームの一員として力を発揮できるベストな役割を与えてあげることです。

 シーズンが終わると、担当コーチなどと相談しながら全選手に対して翌春のキャンプインまでに克服すべき課題を伝えていました。その際には「なぜそれを今やるのか」「それを克服したらどうなるのか」を裏付ける資料も作り、説明責任を果たすようにしました。

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