「思っている以上にウクライナは日本を評価していた」 前駐ウクライナ大使が明かす開戦時のリアルとゼレンスキーの卓越した能力

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バイデン大統領に不信感を抱いた人も

 このような経緯を見る限り、トランプ政権が今後、ウクライナを見限るようなことはまずないだろうと思います。むしろ、戦争を終結させたいという点でゼレンスキー大統領とトランプ氏は意見が一致しており、ここへきて初めてウクライナとアメリカのベクトルが重なったという印象すら受けます。正直、このような感覚はバイデン政権では得られなかったものです。

 トランプ陣営は大統領選のさなかこそ、いろんな人が好き勝手に発言したのですが、大統領選後は次第に発言が慎重になっていっています。ウクライナ問題についても、先ほど挙げたウォルツ氏、ケロッグ氏、ルビオ氏しか発言しなくなっていっている。そしてこの三者に共通するのは、反ロシア・親ウクライナの傾向が強いということなのです。

 さらに、前回のトランプ政権で、それまでのオバマ政権と打って変わって、クリミア紛争で揺れるウクライナへの武器供与を開始したという事実もあります。

 また、そもそもこの戦争の始まりを振り返ると、ロシアのウクライナ侵攻にとって「ポイントオブノーリターン」となったのは、21年12月7日に行われたオンラインでの米露首脳会談でした。この会談後、バイデン大統領はマスコミから聞かれて「ロシアとウクライナの問題にアメリカが軍事介入することはない」と明言してしまいました。プーチン大統領がウクライナ侵攻を決めた背景にこの発言があったのは明らかで、ウクライナ側にはバイデン大統領に不信感を抱いた人も少なくないのです。

犯罪者を徴兵し、最後には北朝鮮兵まで…

 ウクライナ侵攻はプーチン大統領の強い思い入れで始まった戦争ですから、彼が振り上げた拳を下ろすしか終戦の道はない。それは確かにそうなんですが、一方で、国民の支持がなくなれば、独裁国家も倒れてしまいます。

 22年9月にロシアは30万人の動員を開始しましたが、これが国民の大変な反発を招きました。言論統制を敷いているので反発の声は外に漏れ出しませんが、この件でロシアの若者が100万人近く国外へ逃亡したといわれています。それに若い子を持つ母たちの怒りも買い、以降プーチン大統領は大規模な動員をかけられていません。

 その後、プーチン氏が頼りにしたのは民間軍事会社のワグネルでしたが、結末がどうなったかはご承知の通りです。次は重大な犯罪者を徴兵し、その次は軽犯罪者、さらには兵士不足を補うために外人狩りまでやっている始末。そして最後に行きついたのが北朝鮮兵というわけです。ゼレンスキー大統領が「このまま行けばプーチンは拳を下ろさざるを得なくなる」と考えているのは間違いなく、そのような見通しに基づいて「勝利計画」は策定されたとみるべきでしょう。

 まだ「終戦のシナリオ」といえるところまで具体化されているわけではありませんが、恐らくウクライナがもう少し戦況を好転させたところでこの戦争は終わりに向かう。これが現実的な筋書きなのではないかと私は考えています。

松田邦紀(まつだ・くにのり)
前駐ウクライナ大使、1959年、福井県出身。東京大学教養学部を卒業し、82年に外務省入省。欧州局ロシア課長を務めた後、駐イスラエル大使館公使、デトロイト総領事、香港総領事、駐パキスタン大使などを歴任した。2021年10月に駐ウクライナ大使に就任し、今年10月に退任。

週刊新潮 2024年12月26日号掲載

特別読物「松田邦紀前駐ウクライナ大使インタビュー ゼレンスキー大統領の頭にある『勝算』と『日本の戦後』」より

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