「エヴァンゲリオン」をテーマに作詞15年…林原めぐみが「対ゴジラ」の新曲に込めた人生のヒント
作詞法に“変化”も
――声優としての仕事にはない、歌手活動ならではの難しさはどのようなところにあるのでしょうか?
林原:声優としてセリフを喋るのはノーストレスですが、歌うとなるとメロディーがあるので、そことの折り合いがずっと難しいと思っています。
――メロディーという制約があるぶん、表現の幅が狭まるということでしょうか?
林原:逆に、正解がありすぎるんです。たとえばすごく大きな音楽が鳴っている曲で、大きな声で最後まで歌い上げるのも正解だし、一節だけ台本を読んでいるみたいに「スコン!」と淡々としたフレーズを入れるのも正解だし。演出家みたいな役割も担うので正解が無限にあるんですよね。
「Gathering」のカップリング曲である「Children~はじまりの明日へ~」は、人生でいちばん作詞が難しかったです。これは主旋律を歌う私の声が急に副旋律に回ったり、その逆があったりと、複雑に歌声が重なる合う曲なんです。なので、たかはし(ごう)さんから、「ここの1文字だけは主旋律と副旋律の音が重なるので、歌詞も同じ字をあててください」というリクエストがありました。
たとえば、最後の〈塗り変えるため「君と」 何度でも抗って「会って」〉は、「抗って」と「会って」の部分のメロディーがピタっと合うようになっているので、歌詞も韻を踏ませなくちゃいけなかったりとか。「林原さん、ここ1文字だけ足りません!」「えぇ~!?」みたいなやり取りもありました。
――「Children~はじまりの明日へ~」の作詞は頭を使う、難しい作業だったんですね。普段の作詞作業では、どんな手順で言葉を組み立てているんですか?
林原:昔は必ず1曲ごとに1冊新しいノートを買い、まずは曲を聴いて浮かんできた言葉をどんどん書き出す作業から入っていました。「踏み荒らされる」「手放す」とか、あとは直接歌詞にならない「ミサト」や「足のアップ」という言葉なんかもとりあえず書き出します。
それを見ながら言葉を紡ぐという手順だったんですけど、あるときそのやり方に飽きちゃって、同じことをパソコンのWordでやったことがあったんですね。そうしたら、コピペによって言葉をつなげたり分解したりという”手術”が楽になったんです。 紙のノートでは、ばらまいた言葉のおはじきを集めたり離したりするイメージで、時間がかかっていました。パソコンで機械化され作業時間が短くなったおかげで、熱がさめないうちに詞に落とし込めるようになったなと感じています。
あとWordのいいところは、フォントを変えられるところですね。私の手書きの字は丸っこいので、あえてWordでギザギザしたフォントを選んでみると、目から飛び込んでくる情報が新鮮になりアイデアを刺激する気がします。字であり絵である、みたいな感覚ですかね。
――作詞でも「風景が見える」ことを重要視されているというお話がありましたが、林原さんにとって視覚情報は大事なんですね。
林原:そうですね、視覚情報のイメージは大切にしています。子供にも、「ママに言われて人生でいちばんいいなと思った言葉は『妄想はタダ』だ」って言われました(笑)。「もうちょっといい言葉なかったの?」って突っ込みたくなりますが、そう言われてみれば私の仕事は99%が妄想からの想像から創造すること。とことん妄想して、最後の1%が作品としてやっと表に出るわけですからね。
***
インタビュー前編では、実は「実は気が進まない」という歌手活動を続ける理由について語っている。