「自分が真っ二つになった」声優・林原めぐみが苦手な歌手活動を33年も続ける理由
根っこにいる「看護師」
――林原さんには、攻撃的な言動の裏側を想像する優しさがありますね。
林原:ありがとうございます。この優しさ、わかりにくいんですけどね。大概の人には「怖い」って言われます(笑)。私は看護師資格を持っているんですが、今でも私の中の根っこには小さな看護師がいると思うんですよ。看護学校で実習をしてたときに、私の友達が担当した患者さんがお亡くなりになってしまったことがありました。ボロ泣きしていた友達に対して現場の婦長のナースが「あなたのするべきことは泣くことじゃなくて家族のケアだ」って強い語気でいなしていました。何も知らない人から見たら、「泣いている若い女の子に『泣くな!』と怒っている怖いおばさん」でしかありませんが、ちゃんと真意を汲めば婦長の言動は然るべきものですよね。
そのとき私は友達に「なんてひどい婦長さんだ、とは決して思わなかった」と言いました。その一件で、必ずしも涙が優しさではないと気づけたし、「優しいとは何か」を考えるきっかけにもなりましたね。
――看護師さんには優しさと強さとたくましさが共存しているイメージがあります。看護学校時代が林原さんのルーツというお話には納得感がありました。
林原:看護師が薬をちゃんと飲んでくれない患者さんに怒るのも、優しさゆえの怒りですからね。表面的な言動だけではわからないことはたくさんあると思います。私たち声優は「どうしてこのキャラはこのセリフを言っているんだろう」と考える仕事です。『シャーマンキング(恐山アンナ)』だろうが『スレイヤーズ(リナ=インバース)』だろうが『名探偵コナン(灰原哀)』だろうが『ポケモン(ムサシ)』だろうが、キャラがそこにいる限り、顔が喋っているわけじゃないので。「この子がどういう気持ちで、なぜこの言葉をチョイスしたのか」を仕事で常に考えているので、人の言動は表裏一体であるという気持ちが私の中にあるんですよね。
『ポケモン』に、ムサシの過去エピソードが語られる「さよならドクケイル!」という回があります。ムサシがパートナーポケモンのドクケイルという蛾のポケモンを、あるとき突然「おまえの帰るモンスターボールはないのよ!」と冷たく突き放してしまうんです。でもその言葉の真意は、つがいの相手を見つけたドクケイルに対して「私のところなんかにいないで幸せになりなさい」という人情味あふれたメッセージなんですよね。優しく言っても言うことを聞かないから、冷たい言い方をしてしまう。その言葉だけ聞くとひどいけど、見えてない気持ちが裏にはある。見えてない部分を見えるようにしながらお芝居するのが私たちのお仕事なんですよね。
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インタビュー後編では、新曲「Gathering」に込めた想いを聞いた。