美術品コレクターの「キャバレー王」はなぜわざと“贋作”を購入していたのか 素人が贋作を掴まされない方法とは

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 2024年に美術界の話題をさらったのは徳島と高知の県立美術館で贋作と疑われる作品が見つかったことだった。しかし、昔から美術には贋作がつきもの。近年、アートマーケットが盛り上がる中で、贋作トラブルも起きている。素人が偽物を掴まされないために はどんな対策があり得るのか。その傾向と対策をご紹介する。【小川敦生/多摩美術大学教授】
(前後編の後編)

贋作が生まれる背景と傾向

 贋作であっても、例えば、日本で絶大な人気を誇るフェルメールのような作家の作品にギャラリーや美術品オークションで出会って買おうと思える 機会は相当な富裕層でなければないだろう。が、もう少し知名度が低いけれども市場価値のある作家は無数にいるので、作品を購入しようという意志のある誰もが贋作に出会う可能性はある。近年のアートマーケットの盛り上がりを見れば、そのリスクが高まっていると言うこともできる。ここで改めて、贋作について整理してみよう。

 実は、悪意を持って制作された贋作以外にも、類する例が数多くある。以下に列挙してみる。

・模写であることに気づかずに美術商が真作として売っているもの
・弟子筋や同じ流派・様式の作品の鑑定がしっかりできていないもの
・異なる作家の作品に偽のサインを書き入れたもの
・鑑定書が偽造されたもの

 美術史を俯瞰していると、ある時代の特定の国や地域においては、近似した様式の表現が複数の美術家の作品に見られることがよくわかる。17世紀のオランダでも多くの近似した表現が多数の画家の作品において認められ、その中で特に傑出していたのがフェルメールだったのだ。しかも、当時はサインがない作品も多かった。まず、誰の作品であるかを同定するだけで、困難を極める。それゆえ、悪意がなくても、贋作に類する作品は無数に存在するのだ。

信用できる美術商を見つける

 前編でご紹介したフェルメールの贋作「エマオの食事」の例では美術研究の専門家が鑑定をしていたが、鑑定力を求められる別の 職業がある。美術商だ。売ったものが贋作であることがわかれば信用にかかわるし、真作と判断して仕入れた作品が贋作だったら大きな損失に直結する。必然的に鑑識眼が鍛えられるのである。東京には、東京美術倶楽部鑑定委員会という鑑定組織があるが、運営しているのは東京美術商協同組合に所属する美術商の面々である。

 そうしたことを踏まえて、専門家ではない一般人が贋作を掴まされないためには、どうすればいいか。まずは、信用できる美術商を見つけることだろう。古い作品にはどうしても贋作が多くなる。18世紀以前のいわゆる古典絵画のほうが、19世紀の印象派以降の絵画よりも廉価な傾向があるのはそうした事情も反映していると見ていい。日本美術でも、江戸時代以前の美術品は意外と安く、円山応挙や伊藤若冲のような有名画家の作品でも、数百万円程度のものが数多く市場に出ている。それでも、信用ができる美術商からなら、いい買い物ができるだろう。

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