「病院のハシゴ」は意味がない? 慢性的な疼痛が消えない理由と効果的なトレーニングは? 「脳が痛みを作ってしまう」

ドクター新潮 ライフ

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 古傷が痛む。気になる。また、新しい病院に行って診てもらわないとダメか……。慢性的な疼痛(とうつう)に悩まされている人の数は、実に2000万人にも上るという。特に中高年が苦しむ、この厄介な敵とどう対峙すればよいのか。痛み治療の専門家が対処法を伝授する。【牛田享宏/愛知医科大学・疼痛緩和外科部長】

 腰、肩、膝、首、背中……。昔のけがはもうとっくに治るタイミングは過ぎているのに、どうしても痛みが残って気になって仕方がない。

 このように、けがや病気の直後ではなく、しばらくたっても消えない痛みを慢性疼痛と言い、目安としては3カ月以上続く痛みを指します。

 椎間板ヘルニアや五十肩など、かつての“古傷”が痛むという方は、とりわけ中高年に少なくありません。実際、日本では2000万人以上が慢性疼痛に苦しんでいるとされ、実に5~6人に1人に相当します。

 では、腰や肩を痛めてから大分たち、患部の組織の損傷は修復しているはずにもかかわらず、なぜ痛みは消えないのでしょうか。どうすれば痛みは改善するのでしょうか。

痛みは「患部」ではなく「脳」が作っている?

 痛みの研究と治療を続けてきた私は、患者さんに次のように考えるよう促しています。その「痛み」は、「元恋人」のような存在かもしれませんよ、と。

 失恋の苦い思い出を引きずったままでいると、元恋人のことばかり考えてどんどん苦しくなるという経験をされたことはありませんか? 実は慢性疼痛にはそれと似ている面があります。もしかしたら、感覚としての医学的な「痛覚」ではなく、過去の痛かった経験に“執着”してしまっているために、その時の苦しさや不快感を含んだ情動的な「痛み」が呼び起こされている可能性が考えられるのです。なぜなら慢性的な痛みは、「患部」ではなく「脳」が作っている部分があるからです。

〈と、目からウロコの解説をするのは、愛知医科大学・疼痛緩和外科部長の牛田享宏(たかひろ)氏だ。

 同大は2002年、国内初となる、痛みに対する集学的な治療・研究施設「学際的痛みセンター」(現在は疼痛緩和外科・いたみセンター)を設置。整形外科の観点からだけではなく、心理学などを含め、痛みを総合的に捉えることで、多くの成果を挙げてきた。

 脊椎脊髄を専門とする整形外科医で、学際的痛みセンター長などを歴任してきた牛田氏が、多くの人が悩む慢性疼痛のメカニズムと、その克服法について続ける。〉

医者に疑念を抱き「病院のハシゴ」を……

「痛み」とは、物理的であり機械的、客観的なもので、患部から「痛い」という信号が発せられることによって生じると考えている方が多いのではないでしょうか。だからこそ、病院に行って治療してもらえば痛みはなくなると考え、それなのにいつまでも痛みが消えないと、患者さんの中でいら立ちが募っていくのだと思います。

 MRI(磁気共鳴画像)では患部に異常が見当たらないのに、痛みは続く。医者の治療の仕方が誤っていたのではないかと疑念を抱く。そして、何軒も整形外科を渡り歩く「病院のハシゴ」をしてしまう……。

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