幼い観戦者がサインボールを大人に奪われ…試合中の「デシャンボー」がとった驚きの行動とは【2024年ゴルフメジャー4大会総括】
全米プロの「主役」と「もう1人の主役」
シーズン2つ目のメジャー大会、全米プロは、今年はケンタッキー州のバルハラGCで開催された。その舞台で勝利したのは、メジャー優勝を悲願に掲げていた米国人選手、ザンダー・シャウフェレだった。
72ホール目の18番。1.5メートルのバーディーパットを沈めて勝利を掴み取ったシャウフェレは、言うまでもなく、今年の全米プロの主役だった。
2015年にプロ転向し、2017年からPGAツアーで戦い始めたシャウフェレは、着々と通算7勝を重ね、2020東京五輪では金メダルに輝いて、米国のゴルフファンを沸かせてきた。しかし、メジャー優勝はなかなか挙げられず、「メジャー・タイトル無きグッドプレーヤー」と呼ばれ続けていたことは、彼にとっては何より悔しいことだった。
その悔しさを糧にして、ついにメジャー・タイトルを手に入れたシャウフェレは、このハッピーエンドの物語の主役だった。
しかし、その傍らで、ギャラリーに向かって掛け声をかけ、試合中でも子どもたちと握手やサインを交わし、会場を沸かせながら優勝争いを演じたブライソン・デシャンボーの存在は、最初から最後まで際立っていた。
メジャー大会の最終日、優勝まであと一歩という位置へ浮上したときでも、見知らぬ子どもがサインボールを大人に奪われた場面を偶然、すれ違いざまに目にしたデシャンボーは、すぐさまその場へ逆戻りし、「ヘイ! ボールをこの子に返せ!」と詰め寄った。
デシャンボーは72ホール目で首位のシャウフェレを捉えて先にホールアウト。プレーオフに備えて練習場で球を打ちながら待機していたが、シャウフェレが18番でバーディーフィニッシュし、彼が勝利したことを知るやいなや、手にしていたクラブをその場に置いて18番グリーンへ急行。
そして、シャウフェレに祝福の言葉を贈ったデシャンボーの姿には、スポーツマンシップがあふれかえり、すがすがしく感じられた。
ドラマの主役は優勝したシャウフェレだったが、私は惜敗したデシャンボーのことを「脇役ではなく、もう1人の主役だった」と記した。
「みんなのデシャンボー」が勝利した全米オープン
そのデシャンボーが6月の全米オープンを制し、正真正銘の主役になったことは、世界中のゴルフファンを喜ばせたと思う。
今年の全米オープンは、難コースで知られるノース・カロライナ州のパインハーストが舞台。1か月前の全米プロでは、最後の最後にバーディーパットを沈めたシャウフェレに勝利をさらわれてしまったデシャンボーだが、パインハーストでは72ホール目にクラッチパットを沈め、全米オープン2度目の制覇を成し遂げた。
そんな勝利までのストーリーは素敵だった。だが、それ以上に印象的だったのは、優勝トロフィーを掲げたデシャンボーが「どうにかして、ここにいるみなさん全員にこのトロフィーを触らせてあげたい。この感触を味わってもらいたい」と叫び、トロフィーを抱いて大勢の人々の輪の中に入っていったこと。
もちろん、その場にいた誰もが大喜びで彼のトロフィーにタッチし、デシャンボーと一緒に勝利を喜び合った。
自ずと生まれていた、選手とギャラリーの呼応。それは、デシャンボーと人々の心がつながって一体化していることを如実に物語り、これこそがゴルフの素晴らしさ、ゴルフの醍醐味だと感じさせられた。
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