「踊る」青島と和久さんのモデルは“ハリウッドの名バディ” 亀山Pが明かす大ヒットは「何もないお台場が舞台だったからこそ」
深津絵里のモデルはジョディ・フォスターだった!? では室井のモデルは――?
実は、「踊る大捜査線」に登場する青島たちにはモデルがいる。
「青島君といかりや長介さんが演じた和久(平八郎)さんは、『セブン』のブラッド・ピットとモーガン・フリーマン。また、深津絵里さんが演じるすみれさんは、『羊たちの沈黙』のジョディ・フォスターをイメージしました。すみれさんの髪型がボブなのは、クラリスをモチーフにしているからなんです」
では、柳葉敏郎扮する室井慎次は誰がモチーフなのか――ということだが、「そもそも室井のイメージは当初は違うものだった」と亀山は明かす。
「もっと融通が利かないコワモテの人物像だったのですが、そうしてしまうと青島君の敵が、その人物だけに向いてしまってつまらないなと。彼らが対峙しているのは“個”ではなくて“組織”ですから、相対する存在に血を通わせたかった。その結果、たどり着いたのが、『クリムゾン・タイド』のデンゼル・ワシントン演じるロン・ハンター少佐だった。エリートである一方でやっかみも受ける。それでも信念のために動く。柳葉さんが演じたらハマると思った」
大きな事件は起きない。だが、苦しむ人がいる以上、事件は大小では測れない。そのことを訴える青島と、大小は存在すると唱える室井。所轄対本庁という二項対立を作ることで、何もなかったお台場という場所に物語が浮かび上がった。
その上で、「踊る大捜査線」を制作するにあたって、“絶対にやらないこと”を決めたという。名作刑事ドラマと名高い「太陽にほえろ!」でやってることは、「すべてやらない」。
「僕たちがやろうとしていることは、組織の中で働く人々の物語です。組織ですから、さん付けはもちろん、〇〇管理官、△△課長と呼ぶわけですよね。だから、あだ名は一切作らなかった。犯人に焦点を当てることもなければ。刑事たちは犯人を捕まえて戻ってきても、ほめられることすらない。捕まえることは偉いことではなく、仕事である以上、当たり前なわけですから」
青島幸男都知事(当時)による「臨海副都心」開発の中断も
大志を抱いて警察官になったはずだった青島俊作は、サラリーマン以上にサラリーマン的な言動が目立つ現場に辟易しつつも、その中でできることを模索し、変革しようともがく。
「実は、パトカーを使用するときに上司の印鑑が必要なんて規則はありません。あれは、警察官にも事務職があるということを分かってほしくてやった演出」
そう亀山が笑うように、「踊る大捜査線」はあくまでドラマというファンタジーの世界に過ぎない。だが、働く人すべてが抱えるだろうリアルな葛藤を持ち込んだことで、視聴者は「踊る」の世界に釘付けになった。
「作っていく中で、青島君たちが自分たちに見えてきたくらいです。板挟みになって、やりたいことがなかなかできない。そうした思いを抱く方は少なくないと思うのですが、うなずいてくれる人がたくさんいたから愛される作品になったのだと思います」
スピンオフ作品を含めた劇場版6作のシリーズ累計興行収入は487億円(観客動員数3598万人)。『踊る大捜査線 THE MOVIE2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』(2003年)にいたっては、観客動員数1260万人、興行収入173.5億円という、今現在も実写邦画日本歴代興行収入第1位を誇るほどである。
ドラマが開始される少し前の1995年。東京都知事選に青島幸男が当選したことで、公約として挙げていた「都市博覧会(世界都市博)の中止」が決定的となった。開催予定地は、フジテレビ新社屋のあるお台場を含む、臨海副都心だった。その結果、埋め立て地・13号地は、そのまま無機質な荒野としてしばらく放置されることになる。
その後、「都市博覧会」に投じる予定だったリソースが、この地に向けられることで、13号地は今に続くお台場として開発され、様変わりしていく。何もない空白の期間があったからこそ、「踊る大捜査線」は生まれた。何もなかった埋立地に、金字塔を打ち立てたのだ。
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