全編で「考えさせられた」ドラマ 「海に眠るダイヤモンド」はなぜ、視聴率が低調だったのか

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視聴率が獲れる作品は?

 高視聴率が獲れるドラマは大衆文学的な作品なのだ。

 たとえば木村拓哉(52)がスーパーマンのような検事に扮して大活躍するフジ「HERO(第1シーズン)」(2001年)である。全回平均の世帯視聴率は34.3%。このドラマを観ながら社会の不条理などについて考え込んだ人はいないだろう。およそ純文学ではない。

 2020年版 のTBS「半沢直樹」もそう。主人公・半沢直樹(堺雅人)の命運が気になり、その未来を予想した人はしただろうが、半沢を見て人生を見つめ直した人はいないはず。この作品も典型的な娯楽作。全回平均の世帯視聴率は24.7%だった。

 驚異的な視聴率を稼ぎ続けた同「渡る世間は鬼ばかり」(1990~2019 年)も同じである。考える余地など一切なく、家族をめぐる悲喜劇に目を奪われた。石井ふく子氏(98)ら制作者側も、観る側に何かを考えさせようとは思ってなかっただろう。

 同「VIVANT」(2023年)もそう。娯楽作そのもの。「丸菱商事専務の長野利彦(小日向文世)は善玉か悪玉か」などと推理した人はいただろうが、国防や公安の在り方などについて深く考えた人は少ないはずだ。別班の工作員として命を掛ける主人公・乃木憂助(堺雅人)を観て、自分の在り方を考え直した人もいないだろう。そんな作品ではないのだ。全回平均の世帯視聴率は14.3%だった。

 一方、「海に眠るダイヤモンド」は娯楽的要素がほとんどなかった。それどころか長崎への原爆投下や炭鉱事故など日本人なら忘れてはならない陰惨な過去がいくつも描き込まれていた。

 脚本家・野木亜紀子氏 から視聴者への問い掛けも無数にちり ばめられていた。考えないと分からない場面が複数あった。

 たとえば第6回。リナ(池田エライザ)がこう言った。端島編の主人公・荒木鉄平(神木隆之介)の義姉だ。

「今の幸せの下にはたくさんの犠牲がある。海の下にある石炭、石炭って植物の死骸だって言うでしょ? 植物の死骸に私たちは生かされている」(リナ)

 第5回でリナの内縁の夫・進平(斎藤工)は、本土からリナを追ってきたヤクザの小鉄(若林時英)を殺した。そして海に沈めた。だが、リナの言葉はこの件のみを表しているわけではない。普遍的なものである。誰もが誰かの犠牲によって生かされている。野木氏はそう言いたかった。

 全編で考えさせられた。純文学的な作品そのものだった。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年にスポーツニッポン新聞社に入社し、放送担当記者、専門委員。2015年に毎日新聞出版社に入社し、サンデー毎日編集次長。2019年に独立。前放送批評懇談会出版編集委員。

デイリー新潮編集部

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