全編で「考えさせられた」ドラマ 「海に眠るダイヤモンド」はなぜ、視聴率が低調だったのか

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昭和期から傾向は同じ

 考えさせる作品が視聴率を獲りにくいという傾向は、昭和期から続いている。代表格は巨匠・山田太一さんである。宮藤氏が尊敬している脚本家だ。

 山田さんは障がい者の苦難や高齢者の孤独、3流と呼ばれる大学生の悲哀などに気づくと、すぐに徹底的に調べ、脚本にした。視聴者に考えることを求めた。

 視聴率は二の次。こんな言葉を笑顔で口にしていた。

「僕は視聴率が獲れる作家じゃありませんよ」(山田さん)

 考えさせる作品は視聴率が獲れないことを知っていた。一方で視聴率が獲れると分かっていようが、劇中で殺人事件は1度として起こさなかった。

 山田さんの代表作の1つにフジ「早春スケッチブック」(1983年)がある。この作品を観て人生が変わったという人が何人もいる歴史的名作だ。山田さんの早大時代の同級生で、歌人で劇作家の寺山修司さんも激賞した。

 物語は恋人(岩下志麻)と息子(鶴見辰吾)を捨てて家を出た元カメラマンの男(山崎努)が、帰って来るところから始まる。恋人は既に木訥な信用金庫行員(河原崎長一郎)と結婚している。

 男は自分が迷惑な存在であることが分かっている。それなのに帰ってきたのはなぜか。また息子は血縁と育ててもらった恩のどちらを選ぶのか。観る側を考えさせずにはいられなかった。話題をさらったが、全回平均の世帯視聴率は7.4%にとどまった。

 観る側に考えさせるドラマはどうして視聴率が伸びないのか。これは純文学と大衆文学の関係に似ている。

 純文学には作者の美学やメッセージが全編に込められている。読者に考えることを要求するから、腰を据えないと読めない。ぼんやりしていると、作者の意図を読み逃してしまう。

 純文学の一例は夏目漱石の『こころ』、安部公房の『砂の女』、村上春樹氏 (75)の『1Q84』、絲山秋子氏(58)の『沖で待つ』。派手さがなく、ややもすると難しいから、爆発的には売れにくい。その分、長く残る。与えられる賞は芥川賞などだ。

 一方、大衆文学は読者を楽しませるために書かれた小説。一例は吉川英治の『宮本武蔵』、東野圭吾氏(66)の『容疑者Xの献身』、宮部みゆき氏(64)の『火車』、池井戸潤氏(61)の『オレたちバブル入行組』。娯楽色が強く、分かりやすい。ベストセラーになることも多い。与えられる賞は直木賞などである。

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