シティ・ポップの次なるブームを「杏里」が牽引 竹内まりややユーミンを抑えた“世界でいちばんの人気曲”は、まさかの「シングルB面」だった!
ヒットメーカー角松敏生「セールスよりも“杏里さんが喜ぶこと”を第一に考えて制作した」
当時、杏里の音楽制作に携わったことに関し、角松がコメントを寄せてくれた。
「杏里さんの作品を作らせていただいたことは、当時の制作手法を学んでいくうえでとても重要かつありがたいお仕事でした。同時に、杏里さんはすでに大スターでいらしたので、そんな彼女の作品に携わることには大きなプレッシャーもありました。ただ、セールスそのものよりも、“杏里さんが喜ぶこと”を第一に考えて制作した記憶があります。それが結果的に功を奏したのは幸いなことでした。またその後の音楽制作において、ある意味、自信にもつながりました」
なお、角松の特に思い入れのある3曲を尋ねたところ、『Bi・Ki・Ni』収録の「Dancin' Blue」(Spotify第23位)、『Timely!!』収録の「STAY BY ME」(第10位)、そして『COOOL』収録で、後にセルフカバー集『MEDITATION』にてリミックスされた「I CAN'T EVER CHANGE YOUR LOVE FOR ME」(第46位)が挙がった。どの曲も、後の角松作品にもよく見られる人気の曲想なので、やはり杏里との音楽制作で、彼自身にも大きな学びがあったのだろう。
こうしたストリーミングのヒットを受けて、配信元のフォーライフでは、’23年に上記4タイトルのアナログ盤を約40年ぶりに再発売したところ、4作合計で累計2万枚を売り上げた。特に『Timely!!』はオリコン週間アルバムランキングで39位に上昇し、実に39年ぶりのTOP50入り。さらに、『Heaven Beach』は週間42位をマークし、初リリースから41年目にして最高位を塗り替えることになった。他にも、’11年に高音質のリマスタリング復刻で発売されていたCDが前述の4タイトル合計で3万枚を超える追加プレスとなり、ストリーミングのヒットがパッケージのヒットにまで大きく波及している。
この4作を通して聴くと、杏里自身が20代前半の約2年間で着実に表現力を増していく様子が伝わってくる。さらに、「CAT'S EYE」の大ヒットの前後でも一貫して高品質のアルバムが制作されていたこともよく分かる。それゆえ、彼女の楽曲は時が過ぎても色あせない魅力があるのだろうし、高評価を得られたのも必然だったような気がしてならない。シティ・ポップを聴いていると、なんだかワクワクしてくるのは、単に楽曲が明るいからだけではなく、作品自体から“ベストを尽くしていれば、いつかは夢が叶う”といった野望が伝わってくるからではないか。杏里の作品に触れていると、それがいっそう強く感じられた。
次回は、この記事では取り上げなかった杏里のストリーミング人気曲や、‘24年12月に人気イラストレーターとコラボした「Remember Summer Days」の動画についても取り上げたい。
(取材・文:人と音楽をつなげたい音楽マーケッター・臼井孝)
【PROFILE】
◎杏里(あんり) 神奈川県出身。1978年、シングル「オリビアを聴きながら」でデビュー。’83年に「CAT'S EYE」「悲しみがとまらない」が連続ヒットし、80年代のシティ・ポップをけん引。その後、ダンス・ミュージックやナチュラルなスタイルのバラードなどの自作曲を中心としたアルバムが多数ヒット。現在も、日本と海外のミュージシャンによるグローバル・バンドで国内外の活動を積極的に行っている。現在、「悲しみがとまらない」のB面に収録の楽曲「Remember Summer Days」×日本人イラストレーター chao! とのコラボレーション動画が公開中。
【INFORMATION】
角松敏生 最新アルバム『Tiny Scandal』発売中
34年ぶりとなる3枚目のギター・インストゥルメンタルアルバム。ミュージックビデオが公開中の「NOA」を含めた全8曲を収録。
《収録曲》
1 NOA/2 Summer Scenery/3 MIDTOWN/4 Evening Shadows/5 SOEMONCHO STREET/6 Flowing Shiny Hair/7 Tequila Mockingbird/8 Tiny Scandal