シティ・ポップの次なるブームを「杏里」が牽引 竹内まりややユーミンを抑えた“世界でいちばんの人気曲”は、まさかの「シングルB面」だった!
Spotify人気曲第1位はシングルB面曲!? 再生数は「CAT'S EYE」の6倍以上に
さらに、彼女のSpotify再生回数ランキングを調べてみると、実に興味深い結果となった。なんと1位は、’83年のシングル「悲しみがとまらない」……ではなく、そのB面曲だった「Remember Summer Days」なのだ。本作は、これまで公式で“決定版”としてリリースされてきたベスト盤『MY FAVORITE SONGS』(’88年)や『ANRI THE BEST』(’00年)にも一切入っておらず、彼女の黄金期にはまったく注目されていなかった楽曲と言えるだろう。また、近年、何らかのタイアップ曲に採用されたわけでもない。そのような楽曲が、Spotifyだけでも累計約4,700万回再生と、レコード時代の最大ヒット曲「CAT'S EYE」(累計約740万回)の6倍以上も聴かれているのには驚きだ。ちなみに、韓国の人気DJ、Night Tempoが本作の(Showa Groove Mix)バージョンをリリースしたのは’19年7月。その前から人気が出ていたところに、彼のアレンジがさらに拍車をかけたということになる。
また、SpotifyランキングのTOP10を見ても、シングル曲は2位の「悲しみがとまらない」、8位「オリビアを聴きながら」、9位の「CAT'S EYE」だけで、残る6曲はすべてアルバムのために作られた楽曲だ。通常、アーティスト別の人気曲は、当然ながらテレビやラジオで大量に流れていたシングル曲が大半を占めるが、杏里の場合はアルバム曲が過半数となっている。これも、シングルに対して特段の思い入れがなく、純粋に良質なポップスを求めている海外リスナーだからこそ起きる現象だろう。
特に人気なのが、’82年から’84年にリリースされた『Heaven Beach』『Bi・Ki・Ni』『Timely!!』『COOOL』という4枚のアルバム曲だ。この4枚に収録された楽曲のSpotifyでの再生回数をそれぞれ集計してみたところ、いずれも累計1,000万回を超え、これまでの最大ヒット・アルバム『NEUTRAL』(’91年)の10倍以上の人気となっている。特に、最もストリーミングで聴かれている『Timely!!』は、合計1億回再生をゆうに超える(別表「主なアルバムの当時の売上枚数とSpotifyでの総再生回数」を参照)。
これら4作のアルバムの特徴は次のとおり。
・『COOOL』(’84):全11曲の編曲と5曲の作詞・作曲を角松敏生が担当。杏里の自作曲も3曲に増加。
上記のように、4作ともシンガーソングライターの角松敏生が参加しており、実際、杏里のSpotify人気曲TOP20のうち15曲も、角松が作詞、作曲、編曲のいずれかを手がけている。シティ・ポップのソングライターとしては、その第一人者として挙がるのは林哲司だろう。杏里にも「悲しみがとまらない」など、ここでの上位3作を手がけていて見事だが、角松はそれにも増して、杏里のストリーミング・ヒットにおけるキーパーソンなのだ。確かに、角松の夏や海をイメージさせる爽やかなサウンドと杏里の陽気な歌声は相性抜群で、最強のキラキラなシティ・ポップ感を引き出している。
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