手塚治虫に森高千里、「24時間テレビ」のシンボルマークまで…日本に「アニメーション」を定着させた「久里洋二さん」の偉業を担当編集者が追悼

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2011年3月11日のつぶやき

 機会があれば、ぜひ触れてほしい久里作品を、ふたつ、ご紹介します。

 ひとつは、10分弱の短編アニメーション「寄生虫の一夜」です(1972年、音楽:冨田勲)。とてもことばでは説明できないウルトラ級の強烈映像で、いったい、どこからこんな発想が生まれるのでしょうか。子どもが観たら、トラウマに襲われるでしょう。ブリューゲルやヒエロニムス・ボスが20世紀にいたら、こんな映像を生んだような気もします(実際、久里さんは、ブリューゲルのパロディもつくっています)。

 もうひとつは、2016年に刊行した単行本『クレージーマンガ』です(「クリ・ヨウジ」名義、ユジク阿佐ヶ谷刊)。1年間かけて500頁におよぶマンガやイラストを描き下ろした、オリジナル本です。翌年の日本漫画家協会賞の大賞を受賞しました。これまた“18禁”のブラック・ナンセンスで満ち溢れています。漫画出版史上に残る、稀有な本です。ちなみにこの時、久里さんは88歳でした。

 久里さんのアトリエのベランダには、連日、ものすごい数の雀が来ていました。久里さんは、向かいの喫茶店で、余ったパンの耳をもらい、くずしてベランダにまき、雀たちが食べにくるのを楽しみにしていました。実は、『自伝』のもととなった久里さんのツイートで、もっとも驚いたのは、2011年3月11日の、この書き込みです。

〈突然、一羽も雀が来なくなった。どうしたんだろう? まあ、冬の間、雀たちの面倒を見たことに喜びを感じている。でも、冷たいな、雀君!〉
〈3時前に大地震! 敏感な雀は、地震の予報士だったのだ! いつも来る100羽近い雀が、3月11日の朝は1羽も現れなかった。〉

 そして……。

〈放射能は怖いです。僕は83歳ですから、いつ死んでもかまいませんが、子供たちや若い人たちは、何としても助けてあげなければなりません。〉
〈悲しい、悲しいな。テレビを見ていると、ただ涙が出て仕方がない。みんな助かるよう、手を合わせる。神様、お願いします。みんなを助けてあげてください。〉

 ブラック・ユーモア、色っぽさ、ナンセンス……“毒”のきいたアニメーションで知られる久里さんでしたが、その一方では雀を愛する、こころやさしい方でした。ご冥福をお祈りします。

※『自伝』からの引用は、一部を抜粋して再構成してあります。

森重良太(もりしげ・りょうた)
1958年生まれ。週刊新潮記者を皮切りに、新潮社で42年間、編集者をつとめ、現在はフリー。音楽ライター・富樫鉄火としても活躍中。

デイリー新潮編集部

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