ドイツで「シェルター計画」と「新たな兵役モデル」 「2年連続マイナス成長」深刻な不景気への特効薬は軍拡なのか
連立政権に引導を渡した経済低迷
ドイツのシュタインマイヤー大統領は12月20日、ショルツ首相が信任投票の否決を受けて提案した独連邦議会(下院)の解散を、27日に正式決定すると表明した。これにより、来年2月23日の総選挙がほぼ確定した。
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16日に行われたショルツ首相の信任投票は、信任207、不信任394、棄権116で否決された。信任投票は2005年のシュレーダー政権以来19年ぶり6度目、不信任は4度目だ。
予算協議を巡る対立により、11月に自由民主党(FDP)が連立から離脱したことで、ショルツ政権は社会民主党(SPD)と緑の党の少数与党に転落した。このことで、来年9月に予定されていた総選挙は大幅な前倒しとなった。
ドイツ経済の低迷が連立政権に引導を渡した形だ。
ドイツ連邦銀行は13日、今年の経済成長は2年連続でマイナスになるとの見通しを示した。2年連続でマイナス成長となるのは「欧州の病人」と呼ばれた2002~03年以来だ。東西ドイツの統一後では1度しかない。
総選挙の焦点は移民・難民問題か
政治の空白はドイツ経済にとって泣き面に蜂だ。経済界からは、来年2月まで新たな経済政策が実施されないことへの不満が強まっている。
独公共放送ARDが12月に実施した世論調査によれば、政党別支持率は野党のキリスト教民主/社会同盟(CDU/CSU)が33%と首位だった。次いでドイツのための選択肢(AfD)が19%で、ショルツ氏が率いるSPDと緑の党は14%だ。FDPは3%と連立離脱後も支持を伸ばせていない。
次の選挙の最大の争点は経済対策だと言われているが、筆者は、有権者にとって最も関心が高いのは移民問題ではないかと考えている。
AfDは厳格な移民管理を訴えて不満票の受け皿になっており、支持率でトップを走るCDU/CSUにも同様の傾向が見られるからだ。
CDU党首で次期首相が最有力視されるフリードリヒ・メルツ氏は17日「(ドイツ国内に滞在する)シリア難民の3分の2が働いていない。彼らのほとんどが若年男性だ。彼らは母国に帰ることができるし、帰らなければならない」と発言した。
車突入事件の直後から移民・難民排斥デモ
2015~16年にやってきたシリア難民は100万人を超え、現在も大部分がドイツにとどまっている。10年前は「シリア難民は人手不足に悩むドイツ経済の救世主となる」との期待があったが、肩すかしに終わってしまった。それどころか、「彼らのせいで国内の治安が悪化している」との非難が噴出している。
生活が厳しくなったドイツ人が最も怒っているのは、移民がドイツの社会福祉制度に依存していることだろう。独連邦雇用庁が昨年9月に発表したデータによれば、「市民金(生活保護と失業手当をひとまとめにしたもの)」の受給者の3分の2が移民の背景がある人たちだ。シリア難民の受給者は約50万人に上っている。
移民への風当たりが強まっている矢先に恐れていた事件が起きた。
ドイツ東部マグデブルクで20日、クリスマスマーケットに車が突入し、子供を含む5人が死亡、200人以上が負傷した。無差別攻撃の犯人はサウジアラビア出身の50代の医師だ。詳しい動機は明らかになっていないが、犯行直後からドイツ各地で「移民・難民の国外追放」を訴えるデモが相次いでいる。
CDU/CSUはAfDとの連立を拒否しており、次期政権はSPDとの大連立となる可能性が高いが、SPDは移民の国外追放に消極的だ。このため、総選挙後も移民問題に対する国民の不満が解消されることはなく、ドイツ政治を揺るがす火種としてくずぶり続けることになるだろう。
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