「村営キャバレー」批判に竹下総理の答えは 石破総理と石丸伸二氏の「東京一極集中解消」という一致点
東京には人が集まり過ぎている
今年7月に行われた東京都知事選で一躍全国区の知名度を得ることとなった石丸伸二氏(前安芸高田市長)の政策の中で波紋を呼んだものの一つが、「東京一極集中」の是正だった。「東京都知事になるのに東京の繁栄を妨げようというのか。税収を減らしてどうするんだ」といった批判が主に「アンチ石丸」陣営から寄せられたのだ。
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しかし石丸氏の説明を聞くと、根底に「東京一極集中は結果的に東京に住む人にとってもプラスとなっていないのではないか」、という問題意識があることがわかる。無理やり東京から人を排除する必要がないのは当然だとしても、東京から地方への人の流れも強化したほうがいい、ということのようだ。
この主張は決して突飛なものではない。実は石破茂総理大臣が地方創生担当大臣を経たうえで執筆した論考(2018年)にも極めてよく似た表現が見られるのだ。ここで指摘されているのは東京一極集中のリスク、地方創生の可能性の大きさである。
「石破」と「石丸」の一致点が見られるこの問題についての、石破総理の見解を見てみよう(以下、石破総理の新著『私はこう考える』より抜粋・再構成しました)
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東京の危険性
東京一極集中については、もちろん集中のメリットはあるのでしょう。しかし、現状は過度の集中になっているのではないかと考えています。
国交省の資料で紹介されているデータですが、ドイツの保険会社(ミュンヘン再保険会社)が、自然災害のリスクを世界主要都市で算出したところ、東京(横浜)がダントツで危険だという結果になっています。2位がサンフランシスコで以下、ロサンゼルス、大阪(京都・神戸)と続きます。
なぜ東京がそこまで危険だと見られているか。首都直下型地震という災害発生の可能性が極めて高い。そして、木造密集住宅が多い。これは上空から見れば一目瞭然です。
さらに地下の深いところにたくさんの鉄道が走っていて、多くの人が乗っている。
こうした状況を分析したうえで「もっとも危険」とされているわけです。一極集中の問題点というのは、必ずしも「東京が一人勝ちだから不公平だ」という単純な話ではありません。一極集中は、東京にとっても大きなデメリットなのです。
その点を理解すれば、「地方創生」は、単純に東京の富を地方に移すという話ではなく、東京をより安全安心で活気ある街にすることにもつながる話だということがおわかりいただけることでしょう。
つまり地方創生は、東京のヴァージョンアップや強化でもあるのです。地方と都市、双方にメリットがあるような道筋を考えていくべきでしょう。
中小企業こそがカギを握る
私は、日本経済の構造を変える一つの答えとして、どれだけ地方の力を伸ばせるかということがあるだろうと考えています。
いわゆるグローバルの世界で戦うことを強いられる世界企業は、すでにギリギリまで生産性を向上させ、世界中の巨大企業と日々切磋琢磨を続けています。しかし昔のように、あるいは一部でアベノミクスにも期待されたように、このグローバルで戦うジャイアント企業が勝ち残れば、その傘下にある中企業、小企業、零細企業が潤い、日本経済全体の底上げにつながる、という「トリクルダウン」現象は起きません。なぜなら「みんなで作る」製造業モデルはすでに日本の雇用のメインストリームではないからです。「地方の時代」などと口では言うものの、多くの政治家、またメディアが注目するのは、いまだに大企業の動向です。しかし、日本のGDPの7割、雇用の8割を占めているのは、ローカルの中小零細企業なのです。
上場企業の数は日本に約4000社です。これは日本におよそ400万社ある企業の1000分の1です。つまり、上場企業以外で働く人たちこそが日本人の大多数だと考えるべきであり、ここにダイレクトに効くような政策を考えなければ、国民一人一人の実感につながらないということです。
「地方創生」を、「東京対地方」という構図でとらえる方も少なくありません。しかし東京はすでに世界の都市間競争にさらされています。東京のライバルは大阪や名古屋ではありません。それは北京、上海、香港、シンガポール、クアラルンプール、あるいはロンドン、ニューヨークといった世界中の都市であり、そのために東京はさらなる魅力の向上を続けていかなければなりません。観光地としての東京の魅力は東京の中の「ローカル」の部分、つまり区市町村が担っていきますが、グローバル都市としての東京は日々さらなる発展を余儀なくされているのです。
しかし、シンガポールのように都市しかない国家と違い、我が国には自然条件に恵まれた地方都市・住宅地があり、農林水産業、観光業などのサービス業、地域の建設業などがあります。ここにこそ、あらゆる可能性、多くの伸びしろ、新産業やニッチ産業のシーズ(種)があります。
このローカル産業、つまり地方の成長が、これからの日本全体の経済成長を支えるのです。
地域差はいろいろありますが、総じて地方は子育てもしやすく、出生率も高いところが多いです。そこに十分な雇用と所得があれば、人口が東京に流出することなく、むしろ増えていき、地方で豊かな暮らしを営むことができる、そうした環境を作ることがすなわち経済政策にもなっていくのです。
地方の所得が増えて、地方から中央への人口流出が止まり、人口が増加に転じる。そこに活路を見出す。いろいろ考えましたが、これが私の結論の一つです。
地方創生の成功例
地方が活性化し、甦った実例は数多くあります。いずれも関わった人たちの創意工夫、熱意が感じられる感動的で興味深いエピソードばかりです。
こうした話を、地方創生担当大臣を務めるようになってからあちこちでするようになりました。地方で講演する際には、なるべくその地元や近隣の成功例を盛り込むようにもしています。
意外と地元の人でも知らないことも多いようで、「そんないい話があったのか」と喜んでいただけます。また、様々なアイディアに刺激を受ける方も多くいらっしゃいます。
最大の問題は、この手の話は東京と、東京のメディアにはウケが良くない点でしょうか。
ほんとうに残念ですが、やはり地方を下に見るような風潮が影響しているのではないかと思わざるをえません。過去の著書『日本列島創生論』でも、私は全国で目にした地方の成功例を多く紹介しました。島根県の隠岐島、鹿児島県のやねだんという集落、私の地元・鳥取県の「森のようちえん」、高知県の「土佐の森・救援隊」等々。感動的なストーリーが数多く、地方で生まれています。
どこも、「過疎に悩んでいました」という入口は一緒です。しかし町長や町民の自主的な取り組みがはじまり、多くの人を巻き込むことにより、あるいは雇用が生まれ、あるいは観光客が増え、あるいは若い人たちが移住し、補助金に頼らないために新しいビジネスを生み出すことに成功しています。
東京だけが憧れだった時代は終わった
私は、この先の日本に明るい未来をもたらすのは、こうした地に足の着いた取り組みであると確信しています。そして、その積み重ねによって国全体が良い方向に向くと思っています。
こうした考え方に対して冷ややかな見方もあるようです。「石破の言っていることはスケールが小さい」という批判があったとも聞きました。
しかし、地方が元気になることが「小さい」話だと受け止められているのだとしたら、それには大いに異議を唱えたいと思います。
そんな「小さな」成功の積み重ねで、日本は盛り返さないよ──そんな冷笑的な考え方をされる方には、違うご説明をする必要があるのかもしれません。
「小さい」話が好きではない方も、「働き方改革にとどまらない構造改革」「起業フレンドリーな環境整備」「切れ目ない人材育成の観点からの教育改革」というような言い方なら、少しはご納得いただけるのではないでしょうか。
すでに「東京で一旗上げたい」というような意識は、一昔前のものになりつつあります。特にポスト3・11世代、東日本大震災で「お金があってもモノが買えない」という状況を目の当たりにした若い世代は、モノを生み出す地方の真価を正当に評価してくれるようです。
とにかく、今までにない状況に対応するのですから、従来型の思考法から完全に自由にならなければなりません。
政治家が大きな話をすることは大切です。これから先は、大きな国家ビジョンを語る必要があります。しかし、それは日本全体を大雑把に捉えて「こうすればよくなるはずだ」というアバウトな話をすればいい、ということではありません。
地方の視点、地方出身者の感覚を無視して、日本全体を盛り上げることは不可能です。
おそらく竹下元総理は、この点を早くから意識なさっていたのでしょう。だからこそすべての自治体に平等に1億円を支給する「ふるさと創生」という大胆な政策を実行した。人口1000人の村にも100万人の都市にも平等に渡したのです。
急に現金が支給されたので、なかにはおかしな使い方をした自治体も少なくありませんでした。なかには「村営キャバレー」のようなものを作ったところまであった。そのため、この政策は当時、評判が良いものではなかったようです。特にメディアでは冷笑的に捉えられました。
しかし、当時、竹下元総理が私に言った言葉が忘れられません。総理は当時からあったバラマキとの批判に対し、こう仰っていました。
「石破なあ、それは違うんだわね。これでその地域の力と知恵がわかるんだわね」
実際、1億円を浪費に近い形で使ってしまった地方もあれば、今でも活きる形で使った地方もありました。
長期的ビジョンで議論を
国会議員も、あるいは中央メディアもあまり取り上げないことですが、今でもこの国の経済を支えている多くの人は圧倒的に地方にいます。8割以上のローカル企業が地方から日本経済を支えています。その地方が変わらないで、日本が変わるはずがありません。
東京にもグローバル都市としての顔と、ローカルな「一地方」としての顔の両方があります。そして、どちらの機能も発展させなければならず、課題も少なからず存在します。
東京は今まで大量の若年人口を吸い上げることにより「若い都市」でいられましたが、この先は急速な超高齢化が進みます。にもかかわらず、医療や介護の体制は「若い都市」のまま。急性期重視の医療体制から転換できていません。
実は地方が元気になり、東京への一極集中が解消されていけば、結果として東京の価値が上がることにもつながる、とも言えます。
本来、こうした長期的な国家ビジョンについては、国会でもっと議論されるべきテーマです。しかし実際には、目先の政策どころか、「疑惑」「失言」といった話に終始することも珍しくないのはご存知の通りでしょう。地方創生担当大臣の時にも、もっとお話ししたいことはたくさんありました。
やはり「不都合」や「不利益」に関する議論は避けられてしまいがちなのでしょう。
しかし、本当は語れば国民はわかるはずだ、と私は確信しています。