「ハッカーの数はFBI捜査員の50倍」 自衛隊の機密情報も盗まれ… 中国によるサイバー攻撃の実態 「第2次世界大戦に負けたのと同じ状況」

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日本の取り組みは数周遅れ

 では、日夜続く中国のサイバー攻勢に日本はどう対処すべきか。すでに永田町では「能動的サイバー防御(ACD)」の導入に向けた議論が始まっている。ACDとはサイバー攻撃を仕掛ける際に使用される、攻撃元のサーバーなどを事前に検知し、そのサーバーに先制攻撃を仕掛けて無力化する積極的な防御措置のことだ。

 ACDは世界では当たり前に実施されており、サイバー防御には欠かせない防衛策の一つだ。が、日本では「通信の秘密」を定めた憲法21条第2項をはじめ、電気通信事業法などが足かせとなって議論がなされてこなかった。

 岸田文雄政権下の22年12月には、閣議と国家安全保障会議で、ACDの導入を盛り込んだ安保関連3文書を決定したものの、肝心の国会での議論が何度も先送りされてきた。ようやく今年6月に有識者会議が始まったが、それでも動きは鈍い。まるで日本がサイバー攻撃の脅威にさらされている事実を忘れているかのようにすら見える。

 一方で、日本政府は「パブリック・アトリビューション」なる取り組みを行っている。これはサイバー攻撃の犯行グループや、その背後の国家や地域などを名指しして政府が声明を出すものだ。こちらも欧米諸国ではごく当たり前の取り組みだが、日本は17年に初めて北朝鮮のサイバー攻撃を名指しで非難して以来、これまでに複数回の実績がある程度に過ぎない。

 パブリック・アトリビューションの主たる目的は抑止にあるとはいえ、日本の取り組みはまだまだ緩いと言わざるを得ない。例えば、米当局は犯行グループの名指しにとどまらず、実行犯の起訴や指名手配まで行う。時には制裁措置も発動しており、日本も単に声明を出すだけでなく、さらなる実効力を伴う措置を講じることで、相手をより強くけん制するべきだろう。

 警察庁は警察法を改正し、22年4月に国家警察組織としてサイバー警察局を発足させた。それまではサイバー攻撃事案に各都道府県の警察が対処していたため、国際的な共同捜査や情報共有が円滑に進まなかった。サイバー警察局の設置により、ようやく日本も国際共同捜査に参加できるようになった。各国との情報交換も活発化しており、今後はACDやパブリック・アトリビューションにも生かせるだろう。

 もっとも、先を行く諸外国から見れば日本の取り組みは数周遅れの状態にある。“サイバー後進国”である日本の実態を長らく取材してきた筆者から見れば、やっとここまできたか、という印象だ。

 覇権国家・中国のサイバー攻撃や工作は今後も増えこそすれ減ることはなく、しかも巧妙化が進むのは間違いない。サイバー空間におけるさまざまな攻撃は、われわれの経済活動や日常生活に大きな打撃をもたらす。ひいてはわが国の国力を低下させる深刻な脅威に他ならない。目に見えないからこそ、陸海空、宇宙と同じように一日も早く国防という観点からの強力な対策と措置を講じなければならない。

山田敏弘(やまだとしひろ)
国際ジャーナリスト。ロイター通信社、ニューズウィーク日本版を経て、MIT(マサチューセッツ工科大学)でサイバーセキュリティとインテリジェンスを研究。帰国後はフリーとして、雑誌やテレビ、YouTubeなどで活躍。『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』『サイバー戦争の今』、『世界のスパイから喰いモノにされる日本』など著書多数。

週刊新潮 2024年12月19日号掲載

特別読物「ハッカーは数百万人 日本を狙う中国政府『サイバー攻撃』の驚くべき実態」より

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