「ハッカーの数はFBI捜査員の50倍」 自衛隊の機密情報も盗まれ… 中国によるサイバー攻撃の実態 「第2次世界大戦に負けたのと同じ状況」
陸・海・空、そして宇宙に次ぐ、新たな“戦場”と化したサイバー空間。そこでは日夜、覇権国家・中国が世界各国への熾烈(しれつ)なスパイ活動を展開している。日本の国民生活や安全保障を脅かす重大な危機の現実を、国際ジャーナリストの山田敏弘氏がレポートした。
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およそ100年前に日本から贈られた、約3000本もの桜の木々が立ち並ぶ、米国のポトマック河畔に残雪が白く映えていた今年1月31日。首都・ワシントンDCでは、下院特別委員会の公聴会に出席した連邦捜査局(FBI)のクリストファー・レイ長官が激しい口調で指摘していた。
「現在の中国による危険な工作活動は、国家と経済の安全保障に対して深刻な脅威となっている――」
長官が示唆した“危険な工作活動”とは中国がエスカレートさせているスパイ活動のことであり、発言はそれが母国にとって重大な脅威と化していると認めたことを意味する。
スパイ活動は激増の一途
昨年2月、米本土の上空を、米軍基地の情報収集が可能な状態で通過していた中国の偵察バルーンが、米空軍に撃墜された事件は記憶に新しい。2015年には米政府職員ら約2210万人もの個人情報が流出しており、中国の関与が疑われた。これによる二次被害はその後も続いている。今年2月には米企業が開発していた核兵器発射の検知技術を盗み出した中国人が摘発され、3月には中国人が米兵を唆して軍の情報を買い取っていた事案が明るみに出た。中国によるスパイ行為は枚挙にいとまがない。
23年のCSIS(戦略国際問題研究所)の調査では、00年以降、米国における中国の諜報活動が200件以上報告されている。うち約7割は習近平が13年に国家主席に就任して以降で、昨年からスパイ活動は激増の一途だ。米政府関係者によれば、
「23年にFBIが捜査に乗り出した中国によるスパイ事案は2000件を超えており、事態は深刻な状況と化している」
「サイバー分野の諜報工作で最も活発なのは中国」
中国の諜報活動は巧妙だ。最たる理由は諜報・工作活動の舞台がサイバー空間上に移ったからだ。英MI6でサイバー工作の責任者を務めた元スパイは、最近、筆者に明言していた。
「いまでは、諜報活動の6~7割はサイバー工作で実施可能だ。サイバー分野の諜報工作で、世界で最も活発に活動している国は間違いなく中国だ」
先のレイ長官も、今年4月18日に「中国共産党の脅威は、犯罪行為や防諜、サイバー工作を含むハイブリッドなものになっている」と指摘した。そのうえで長官は「中国は世界最大のサイバー攻撃プログラムを持っており、その規模は、世界のすべての主要国を合わせたよりも大きい」と警鐘を鳴らすことも忘れなかった。
昨夏にも、米バイデン政権の幹部が送信した大量のメールが中国人民解放軍傘下のハッカー集団のサイバー攻撃によって盗み出されたことが明らかになった。こうした現状を見越していたのか、近年、米政府は国内の重要インフラに対する攻撃にも警戒を強めている。
今年2月、中国政府系のサイバー攻撃グループ「Volt Typhoon」が過去5年にわたって航空分野や鉄道、水道、電力など重要インフラの制御システムに侵入していたことが分かっており、台湾有事などの際に、米国のインフラを停止・破壊できるよう備えていたと目される。
こうした脅威は米国の同盟国である日本にも襲いかかっている。残念なことにわが国は、その脅威に対してほとんどなすすべがない。
昨年8月には、米ワシントン・ポスト紙が日本の防衛当局者を震撼(しんかん)させる驚きの記事を掲載した。20年のある時期から、中国軍のハッカーが日本の防衛上の最高機密情報を扱うネットワークに侵入していたことを、米国防総省傘下の国家安全保障局(NSA)が検知したというものだ。
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