なぜ「親の会社を継ぐ」ことは難しいのか…「現場からのやっかみ」だけでなく「子どもへの愛情」がギャップを広げる原因にも
現場からのやっかみ
事業承継をする子においては大きなハードルが生じることがある。
それが「現場からのやっかみ」だ。
ブルーカラーの現場には、いい意味でも悪い意味でも「職人気質」の従業員が多い。入社してきた「社長の子」は、言ってみれば「現場にいる誰よりも業界や自社での経験が浅いのに、誰よりも将来が約束されている存在」だ。
ゆえに、現場から「何の知識もないただの身内」「苦労しないでいずれ社長になれるボンボン」というレッテルが貼られる。
しかし、どれだけ理不尽なことでいびられても、現場の仕事や技術はその現場の従業員から教えてもらわなければならない。そのためには、時にそれまで外で培ってきた社会感覚や知識を封印し、現場の職人目線に合わせ接する必要がある。それがたとえ年下の従業員であってもだ。
女性経営者の共通点
もう一つ、ブルーカラーの跡継ぎについて申し添えておきたいのが、「承継する子が女性だった場合の苦悩」についてだ。
ブルーカラーの現場では、「後を継ぐのは男性が当たり前」という固定観念がいまだに残る。
筆者が父の工場を継ぎたくないと思っていた理由には、「自分が女だから」という思いは微塵もなかった。技量という部分において、「男性にできて女性にできない仕事がある」と思ったことは今まで一度たりともない。その逆もしかりだ。
しかし現在、取材の現場で出会うブルーカラーは、作業員も経営者もほとんどが男性。なかでも女性でブルーカラー関連企業の社長をやっているという人は本当に少ない。
少数ながら、社長になった彼女たちに経緯を聞くと、多くが同じ答えを返してくる。
「親の急逝」だ。
元気だった父親が急逝し、突如として跡を継いだという女性が少なくない。そうすると「社会の『し』の字も知らない社長の娘に何ができる」と、いびりはさらに厳しいものになる。
現場も経営者も男性ばかりの世界。本人には全く自覚のないセクハラも、体を使うブルーカラーの世界ではホワイトカラー以上に辛辣なものがある。
現在、人手不足が深刻なブルーカラーの業界においては、女性の作業員を積極的に受け入れようという動きが活発化しているが、真っ先にするべきは女性経営者を増やすことと、彼女たちの社会的地位の確立だと痛感するのだ。
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