若い漫画家から飛び出した「手塚治虫って誰ですか?」…令和の若者にこそ読んでほしい手塚漫画とっておきの「2作品」

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手塚作品は若い世代もぜひ見るべきだ

――手塚作品は、教員の立場から考えて、やはり見た方がいいのでしょうか。

金澤:見た方が良いと思います。商業映画が舞台劇の録画のようなものからその歴史が始まり、レンズや機材、カメラワークの発明から進歩したように、漫画もまた世に新しいものが出るたびに表現が進化していきました。手塚先生は漫画に映画のカメラワークを平面構成として移植した点など、たくさんの功績があります。

――手塚治虫は日本初のテレビアニメ「 鉄腕アトム」を制作するなど、アニメの世界でも大きな仕事をしました。アニメの表現の面でも功績はあるのでしょうか。

金澤:絵の枚数を少なくして動きを表現する“リミテッドアニメ”や、変身シーンなど何度も出てくる場面を保存して別の回などに用いる“バンクシステム”を取り入れたのは手塚先生の大きな功績です。絵が動かなくても、ポージングやシルエットで動作感を出す、現在のアニメ作画への影響は大きいと考えます。

――現代のアニメでもよく見られる表現ですね。

金澤:はい。こうした、現代では当たり前のように使われる技法が、歴史のなかでいかにして積み上げられてきたものなのかを知ることは大切ですし、新しいものを生み出す力に繋がると考えています。

――アニメの用語などにも、アナログ時代の言葉が残っていたりするのでしょうか。

金澤:セル画に由来する“セル”という言葉など、フィルム時代の専門用語が現在も受け継がれています。ほかにも、カメラワークの“PAN”という用語や、“透過光”と呼ばれる表現は、すべてフィルム時代のアニメで使われていた撮影用語なのです。そういった用語の成り立ちを学べば、アニメがより深く理解できると思うんですよ。

――確かに、言葉の意味を知ることで、より深く物事の意味を理解できるようになりますね。

金澤:新しくアニメ業界に入る方は、専門用語がフィルム時代のものと知らず使っている方が多いでしょう。そのことで世代間のギャップが生まれ、現場の情報伝達にも影響が出ているのではないかと感じています。「これの語源はこの言葉からきている」という根幹を、アニメに関わる方々全員が知ることによって、現場のスムーズな意思疎通に繋げることができるのではないかと思います。

これは見ておいてほしい、手塚作品とは

――金澤さんが考える、これは見ておくべきだという手塚作品と、その理由を教えていただけますか。

金澤:まず、『紙の砦』です。手塚先生の自伝なのですが、戦中戦後の混乱期の社会のなか、漫画にいかに打ち込んできたのかが描かれています。高校生の頃共感し、何度も読み返しました。舞台が、僕が育った大阪をはじめ、知っている場所も出てきた影響もあって、親近感を抱きました。「大変な世の中だけど自分も何かを生み出したい」と思う方に、ぜひ読んでいただきたいと思います。

――他には、どうでしょうか。

金澤:『アドルフに告ぐ』をおすすめします。あのアドルフ・ヒトラーが実はユダヤ人だったという機密文書から始まる旧日本と、ナチスドイツに育つ2人のアドルフの成長劇です。今読んでも、壮絶な時代の人間模様と戦争という強大でままならないものが描かれ、読めば読むほどその渦の中に入ってゆくドラマに、中学から高校生にかけて夢中になりました。

――中学~高校時代に『アドルフに告ぐ』を読むとは、凄いですね。晩年に描かれた手塚作品のなかでも、ストーリーが練り込まれた傑作です。

金澤:僕は本作を読むまで、機動戦士ガンダム』や『風の谷のナウシカ』に影響されていたアニメオタク少年でした(笑)。対して、手塚作品や少年漫画、アニメーションは子どものためのものと決めつけていたので、『アドルフに告ぐ』を読んだ時のショックは大きかったですね。ぜひ、今の若い世代には、10代のうちに読んでほしいと思います。

――ありがとうございます。最後に、手塚作品が若い人たちにもっと支持されるようにするためには、どうすればいいと考えていますか。

金澤:ファンの方が直接若い方々のもとに赴いて、一緒に鑑賞する機会を設けることだと思います。あとは、家族で観る機会があるといいですね。コロナ禍以降、ご家庭で映像作品を観るきっかけが増えたように思います。手塚作品に親しんできたご両親や祖父母のみなさんも、照れたりせず、お子様やお孫さんに当時の良い思い出話を含めて視聴されてはいかがでしょうか。読んだ、観たというだけでなく、周りの人と話した時間や環境も含めて楽しめるのが手塚作品ではないかと僕は思います。

ライター・山内貴範

デイリー新潮編集部

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