「週刊ダイヤモンド」が書店販売をやめる…創刊111年「老舗経済誌」のデジタルシフトを、担当局長&編集長が語った
上層部と危機感を共有
――プロジェクトに対する社内の反応はいかがでしたか。
山口氏「社内の多くはデジタルでの有料課金サービスに懐疑的だったと思います。当時は雑誌を担う週刊ダイヤモンド編集部と、デジタルコンテンツを配信するダイヤモンド・オンライン編集部はそれぞれ別の局にありました。当然目標も異なり、前者は記者が獲ってきた独自コンテンツを生かして雑誌の部数を追い、後者は外部識者のコンテンツによって獲得したPVで広告収益を追っていました。両編集部の融合は進んでおらず、サブスクモデルの難しさを痛感していました」
――上層部をどのように説得しましたか。
山口氏「説得したというよりも、上層部の一部も同様の危機感を持っていました。『このままではまずい』と。そこでメディア事業に精通している今の私の直属の上司を外資系通信社からダイヤモンド社に呼び戻して、一気にデジタルシフトを進める決断を下したんです。その上司が中心になって両編集部の統合を決断して、私が最初の統合編集長になりました」
――記事の作り方は変わったのでしょうか。
山口氏「記事の作り方は完全にデジタルファーストに変更しました。文体も、冒頭に答えを書く従来の逆三角形型の構成では、ペイウォール(有料課金の壁)を越えてもらえないため、課金してもられるような文体にしました。オンラインのKPIも見直して、PVを主要目標からいったん外して、会員べースの収益モデルに転換しました」
――サブスク参入当初、大変だった点を教えてください。
山口氏「編集部にサブスクリプションの考え方を浸透させる際には、試行錯誤を繰り返しました。記事の作り方、文体、会議、業務フロー、全てを変える必要があったんです。編集部内では『これで本当に大丈夫なのか』という不安の声や、『急激にデジタルシフトしすぎているのでは』という意見もありました。そこで、週刊誌市場の将来シミュレーションを作成しました。現行のビジネスモデルのままだと、2027年に週刊誌市場が消滅するという結果が出たので、そうした数字を見せながら『このままではまずい』を共有することで、デジタルシフトの重要性を理解してもらうようにしました。毎日が大変で、当時は出社前、緊張で毎日のように吐いていました」
――どのような業務フローを導人したのですか。
浅島氏「デジタルでの特集を先行させ、その後2~3週間遅れで雑誌に特集を掲載する形にしました。そのため、工程表を緻密に作り込み、どのタイミングで何をすべきかを明確にしました」
――収益モデルも変わりましたか。
山口氏「現在、コンテンツは大きく3つに分かれています。有料課金の記事、無料会員向けの記事、そしてPV向けの記事です。PVは拡散性が重要で、有料課金記事は深掘りが求められるため、それぞれ編集部で異なるアプローチを採用しています。このバランスが重要で、PVで運用型広告の収益を確保しながら、有料課金モデルを伸ばし、無料会員を活用した収益モデルも整えています」
――デジタルに移行して、手応えはどのように感じていますか。
浅島氏「結局、シンプルにどこにも何も書かれてないことがめちゃくちゃ読まれるということがわかりました。むしろ、デジタルの方が伝播するんです。そのあたりの本質は変わらないので、あとはテクニカルなところを変えていけばいいんだと思いました。紙時代の“DNA”はきちんと残して、ニュートラルな立場で忖度なく、伝えるべきところは伝えていきたいと思います」