ブレイク前に「夜のヒットスタジオ」で…TUBE春畑道哉と角野秀行が振り返る“洗礼” 90年代に歌謡曲に目覚めたエピソードも

  • ブックマーク

細川たかしもカバー、“マイナー歌謡”の「さよならイエスタデイ」

 ランキングに戻ると、Spotify第6位には‘91年のシングル「さよならイエスタデイ」がランクイン。これも、前年にリリースした「あー夏休み」に続き、全4種のオールタイムベストのうち『Unique盤』に収録された人気曲だ(その他の3種は『Tropical盤』『Ballad盤』『Excite盤』)。「さよならイエスタデイ」は、「あなたの胸の中で少女を脱いで女になったあの夏」など、全体にドキリとさせられる歌詞も特徴的だが、これが“Unique”に分類された一因だろうか。

角野「いえ、どちらかというと興味本位で曲を作って、面白いアレンジやダンスを加えていったという部分が決め手ですね」

春畑「ライブでは、サンバのステップを踏みながら踊って、お客さんを笑わせていました。この曲は、僕たちの間で“マイナー歌謡”と呼んでいたんです。というのは、リリース前は気が乗らなかった『あー夏休み』がこんなに受け入れられて、自分たちにもいい作用をするんだなって分かったので、じゃあ、もっと大げさにサビで転調する歌謡曲を作ってみようと。その後にリリースした『ガラスのメモリーズ』(Spotify第7位)も似た路線なので、同じく『Unique盤』に入っています」

 本作は、なんと細川たかしも自身のアルバム内でカバーしている。彼がTUBEをカバーするとは一見、意外に思えるが、彼らがここでは歌謡曲テイストを目指していたことを考えたら、元来、伸びやかな高音が持ち味の細川が、この曲を選んでも納得がいく。

春畑「今年は、演歌歌手の北山たけしさんに『夏の終わりが来る前に』という曲を提供したのですが、ここでマイナー歌謡を作った経験も活きていると思います。『夏の終わりが来る前に』は、’20年のアルバム『日本の夏からこんにちは』に入れるつもりで作っていたのですが、アルバム全体のバランスから収録せずに、ずっと温めていたんです」

ベストアルバム未収録の「夏が来る!」が21世紀のTUBE楽曲で最大のヒットに

 TUBEの上位曲は、ストリーミングの解禁が段階的だったこともあり、’15年にリリースされた前出のオールタイムベスト収録曲(ランキング表中の「ATB区分」で「T」「U」「B」「E」と記された楽曲)を中心に人気曲が並んでいる。その中で、第11位にはベスト盤に未収録のシングル「夏が来る!」(’18年)がランクイン。本作は、21世紀のTUBE楽曲ではダントツの人気で、Spotifyだけでも200万回再生を超えている。確かに、サビの「君の笑顔 晴れるYa~」という歌詞や穏やかな曲調は、聴いているだけで心がほぐれてきそうなピースフルな作品だが、夏の灼熱をイメージした楽曲にヒットが多いTUBEとは、かなり印象が異なる。

角野「これは、大黒摩季さんの『夏が来る』と区別するためにタイトルを『夏が来る!』にしたんですよ。一応、ご本人にも確認を取りました。ライブではそんなにやっていないんだけど、上位にいるということは……もしかして、摩季ちゃんと間違えて再生している人が多いとか?(笑)」

 確かに、ブレイク前のアーティストが、大ヒット曲と同タイトルやそのカバーを発表して再生数を伸ばすケースは見られるが、TUBEのような有名アーティストではちょっと考えにくいので、これは純粋に楽曲の人気だろう。

春畑「最近の作品もこんなに聴いてくれるなんて嬉しいですね。この曲は『クノール』朝のカップスープのCMタイアップが決まっていたので、あまりギラギラせず、初夏の爽やかな感じにしたんですよ」

角野「今って、何がヒットのきっかけになるか分からないですよね。以前、高校生のファンの方とお話しさせてもらった時、『Tシャツとブルージーンズ』というアルバム曲(’94年の『終わらない夏』収録)が大好きとおっしゃっていて。理由を尋ねたら、“YouTubeでたまたま見かけて曲が良いと思った”って教えてくれました。また、先日、松原みきさんを久々に聴こうと思ったら、今や世界中でヒットしているとのことで、周りのみんなが知っていて驚きました」

 TUBEは海や青空など青系統のジャケットが多いので、今後、すでに海外で大ヒットとなっている大滝詠一や杏里の作品と併せて聴くリスナーも増えるのだろうか。そう考えると、なんだかワクワクしてくる。

 最後に、やや余談になるが、デビュー30周年(’15年)の時のエピソードを話してもらった。

角野「あの年の4月1日、池袋駅の『東武』と『西武』との間に『中武(チューブ)デパート』を作って(笑)、僕らはその店長や各部署の部長になりきり、いろんな関連グッズを販売したんですよ」

 遊び心あふれたプロモーションにメンバー自らも取り組むなんて、ゴールデンボンバーやヤバイTシャツ屋さんなど平成にブレイクしたバンドならまだしも、今や大御所感のあるアーティストではかなり異例だろう。しかし、こういった遊び心を制作や宣伝、ライブでもノリノリで発揮することこそ、実はTUBEらしさかもしれない(ちなみに、ファンクラブ限定のライブでは、サザンオールスターズはもちろん、矢沢永吉やゆず、あいみょんまでカバーするらしい)。

 最終回となる【次回】は、実はファンの多いバラード作品や、近年の活動について語ってもらおう。

【INFORMATION】
◎最新映像商品『TUBE LIVE AROUND SPECIAL 2024 SUN CUE 4 OAR ~2 Stadiums~』発売中!
 TUBEが今年7、8月に開催した阪神甲子園球場、横浜スタジアムのスタジアムライブ2公演と、ライブまでの準備やリハーサルなど当日まで舞台裏を収めたリッチな1作で、ファンならずとも必見の内容となっている。
〈収録内容〉
[Disc1] (140分)
2024年8月24日 に横浜スタジアムで行われた「TUBE LIVE AROUND SPECIAL 2024 SUN CUE 4 OAR」を全曲収録
[Disc2] (72分)
スタジアム公演までの準備やリハーサルなどの密着映像と、2024年7月13日に阪神甲子園球場でのライブを収録
詳しくはオフィシャルサイトにて
https://www.sonymusic.co.jp/artist/Tube/

【TUBE プロフィール】
ボーカルの前田亘輝(1965年生まれ、厚木市出身)、ギターの春畑道哉(’66年生まれ、町田市出身)、ベースの角野秀行(’65年生まれ、座間市出身)、ドラムスの松本玲二(’66年生まれ、座間市出身)からなる4人組バンド。デビュー前に“パイプライン”を結成し、’85年6月1日にシングル「ベストセラー・サマー」にて“The TUBE”としてデビュー。’86年、3rdシングル「シーズン・イン・ザ・サン」がキリン生ビールのCMソングに起用され、初のオリコンTOP10入り。以降、数多くのシングルおよびアルバムをヒットさせる。’89年からは、ほぼ全曲をセルフ・プロデュースに。また、ライブも好評で、’88年にスタートした横浜スタジアムでの野外ライブは、毎夏の恒例行事となっている。’24年はGACKT、DA PUMPなど、他アーティストとのコラボも精力的に行っている。

臼井孝(うすい・たかし)
人と音楽をつなげたい音楽マーケッター。1968年、京都市生まれ。京都大学大学院理学研究科卒業。総合化学会社、音楽系の広告代理店を経て、'05年に『T2U音楽研究所』を設立し独立。以来、音楽市場やヒットチャートの分析執筆や、プレイリスト「おとラボ」など配信サイトでの選曲、CDの企画や解説を手がける。著書に『記録と記憶で読み解くJ-POPヒット列伝』(いそっぷ社)、ラジオ番組『渋谷いきいき倶楽部』(渋谷のラジオ)に出演中。データに愛と情熱を注いで音楽を届けるのがライフワーク。

デイリー新潮編集部

前へ 1 2 次へ

[2/2ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。