TUBEの定番“夏うた”「あー夏休み」、メンバーは「当初、シングル化を嫌がっていた」音楽界での立ち位置に悩んだ過去も明かす

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「シーズン・イン・ザ・サン」で織田哲郎×亜蘭知子のゴールデンコンビを初起用

 続いて、Spotify第2位は、サビ頭の歌い出しがあまりにも有名な前出のシングル「シーズン・イン・ザ・サン」(’86年)。こちらはCDではなくアナログレコード時代だったということもあってか、売り上げはTUBEの中で11番手と控え目だが、ストリーミング再生回数は「あー夏休み」と共に突出している。つまり、TUBEの人気曲は、シングルのセールス順とはかなり異なっているのだ。

 まず、このシングルを出した際、バンド名を“The TUBE”から“TUBE”に改名した理由を尋ねてみた。

春畑「北海道を周った時、占いの先生にから、“THE を取った方が売れますよ”って言われて、“じゃあ、取りま~すっ”て決めました(笑)。北海道は、機材の積み込みや運転を自分たちで行いながら全国ツアーをしましたね」

「シーズン・イン・ザ・サン」は、のちに’90年のビーイング系ミリオンヒットを量産していく織田哲郎が作曲を手がけ、作詞は、今やシティ・ポップ・ブームで世界的に人気のシンガーソングライターでもある亜蘭知子が担当している。シングルでは3枚目となる本作で、両者ともに初起用となった。

春畑「織田哲郎さんは、デビュー前からバンドでコピーするほど大好きな方だったので、“曲を書いてもらえるなんて!”と、それだけで嬉しかったです」

角野「織田さんも当初はまだ他のアーティストへの提供がなかったので、どんな曲を書いたらいいのかと悩まれていました。それでも『シーズン・イン・ザ・サン』の出だしのコーラスのアイデアも出してくださるなど、やっぱりすごい方ですよね」

春畑「僕らも、自分たちで作ったものをどうにかシングルにしたくて曲を書いていたのですが、みんなで聴いてみると、やっぱり亜蘭さんと織田さんのコンビで書いたのがいいね、って納得してシングルにしていました」

 ちなみに、デビュー作「ベストセラー・サマー」(Spotify40位)と2作目の「センチメンタルに首ったけ」(同71位)はどちらも、作詞:三浦徳子×作曲:鈴木キサブロー。また、当時のアルバムには、亜蘭知子×織田哲郎コンビ以外に小田裕一郎や湯川れい子からも楽曲提供されていた。

角野「『シーズン・イン・ザ・サン』と『あー夏休み』は、今ではライブの定番ですが、一時は別の曲をやっていました。夏ソングなら『夏を待ちきれなくて』や『さよならイエスタデイ』など、他にもいっぱい良い曲があるよ、と言いたかったんです。でも、例えばローリングストーンズのライブに行ったら、みんな『Jumpin' Jack Flash』を聴きたいでしょうし、今はそういうミーハーな部分もバランスよく入れるようにしています」

水着ギャル200人登場、商店街でお皿が飛び交う……『ザ・ベストテン』の“トンデモ演出”にびっくり!

「シーズン・イン・ザ・サン」のリリースは‘86年4月だったが、「キリンびん生」のCMソングとして、夏に向けて徐々にランクアップ。約2か月後に初のオリコンTOP10入りを果たし、6週連続でランクインした。ちなみに、レコード売り上げに有線放送/ラジオ/はがきという3部門のリクエスト順位も加味した音楽番組『ザ・ベストテン』(TBS系)では、総合で11週間もTOP10入りし、年間ランキング3位となっている。当時から、一部のロックバンドはテレビに出演しないという方針が見られたが、TUBEは精力的に露出していたことからも、彼らが全方位でプロモーションをしてきたことが想像できる。

角野「僕ら自身も、自分たちが当時の音楽界においてどうすべきか、立ち位置がわからなくて。それこそ『Player』や『ROCKIN’ON』などの音楽雑誌から、『近代映画』『Myojo(明星)』などのアイドル雑誌まで、なんでも出ていました。アイドル雑誌は2か月前からの撮影なので、3月から海に入っていました。また、レコードさえ売れたらOKとするのではなくて、有線放送の営業所もラジオの放送局にも、みんなでPRに回りましたね」

『ザ・ベストテン』では、角野が「演出がめちゃくちゃすぎて面白かった」と語るように、水着のギャル200人が登場したり、雨の日を再現しメンバー全員がびしょ濡れになったりと、派手な演出が繰り広げられたという。

春畑「他にも、商店街で歌っていたら、なんかお皿みたいなものが飛んできたり、海岸で演奏した後に帰ろうとしたら、周りのみんなからパンチを食らったりしました(笑)。この『シーズン・イン・ザ・サン』がヒットしてからは、仕事が一気に増えて忙しくなったけれど、アイドルの方のように眠れないというレベルではなかったですね」

角野「それでも’80年代は、夏と冬にアルバムリリースとツアーをやって、さらに’88年から’89年は、織田さんや亜蘭さんたちと音楽ユニット『渚のオールスターズ』にも取り組んで、ソロ活動もして……と、年中ツアーかレコーディングをしていました」

春畑「亜蘭さんは、あのお写真のまま綺麗な方で、詞や曲の書き方もアドバイスしてくれましたよ。“この詞、ちょっと分かりづらいから、もう1回直したほうがいいよ”とか」

角野「亜蘭さんは今、若い人にも人気らしくて、先日タワーレコードに行った時も全面展開されていてビックリしました! 詞は亜蘭さんが、曲作りやレコーディングのほうは織田さんがずっと一緒についてくれて、ありがたかったですね」

 彼らの話を聞いていると、40年近くにわたってヒット曲を量産してきたのに、とても謙虚で驚かされる。それは、デビュー後の数年間は自作曲のシングルではなかったことや、自身の立ち位置などについて試行錯誤を重ねたことで、周囲への感謝を人一倍、実感しているからなのだろうと改めて気づかされた。

次回】は、まだまだ盛りだくさんの“夏うた”について語ってもらおう。

【INFORMATION】
◎最新映像商品『TUBE LIVE AROUND SPECIAL 2024 SUN CUE 4 OAR ~2 Stadiums~』発売中!
 TUBEが今年7、8月に開催した阪神甲子園球場、横浜スタジアムのスタジアムライブ2公演と、ライブまでの準備やリハーサルなど当日まで舞台裏を収めたリッチな1作で、ファンならずとも必見の内容となっている。
〈収録内容〉
[Disc1] (140分)
2024年8月24日 に横浜スタジアムで行われた「TUBE LIVE AROUND SPECIAL 2024 SUN CUE 4 OAR」を全曲収録
[Disc2] (72分)
スタジアム公演までの準備やリハーサルなどの密着映像と、2024年7月13日に阪神甲子園球場でのライブを収録
詳しくはオフィシャルサイトにて
https://www.sonymusic.co.jp/artist/Tube/

【TUBE プロフィール】 
ボーカルの前田亘輝(1965年生まれ、厚木市出身)、ギターの春畑道哉(’66年生まれ、町田市出身)、ベースの角野秀行(’65年生まれ、座間市出身)、ドラムスの松本玲二(’66年生まれ、座間市出身)からなる4人組バンド。デビュー前に“パイプライン”を結成し、’85年6月1日にシングル「ベストセラー・サマー」にて“The TUBE”としてデビュー。’86年、3rdシングル「シーズン・イン・ザ・サン」がキリン生ビールのCMソングに起用され、初のオリコンTOP10入り。以降、数多くのシングルおよびアルバムをヒットさせる。’89年からは、ほぼ全曲をセルフ・プロデュースに。また、ライブも好評で、’88年にスタートした横浜スタジアムでの野外ライブは、毎夏の恒例行事となっている。’24年はGACKT、DA PUMPなど、他アーティストとのコラボも精力的に行っている。

臼井孝(うすい・たかし)
人と音楽をつなげたい音楽マーケッター。1968年、京都市生まれ。京都大学大学院理学研究科卒業。総合化学会社、音楽系の広告代理店を経て、'05年に『T2U音楽研究所』を設立し独立。以来、音楽市場やヒットチャートの分析執筆や、プレイリスト「おとラボ」など配信サイトでの選曲、CDの企画や解説を手がける。著書に『記録と記憶で読み解くJ-POPヒット列伝』(いそっぷ社)、ラジオ番組『渋谷いきいき倶楽部』(渋谷のラジオ)に出演中。データに愛と情熱を注いで音楽を届けるのがライフワーク。

デイリー新潮編集部

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