「37年前『写真パクリ騒動』を起こした画家に私を裁く資格はあるのか」日本画の最高峰画壇「院展」から“盗作疑惑”をかけられた元理事の怒り

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あなたに責任追及する資格があるのか

 過去に盗作で大問題を起こした張本人から、本人としては覚えのない盗作疑惑を追及されることになった梅原氏の身になれば、倫理委員会に下田氏が参加していたことが納得できない気持ちは理解できる。

「下田先生は私に『なんでエスキース(註・初期段階の下書き)や小下図(同)を持ってこなかったんだ』と責められました。『私は事前に言われていなかっただけで、家にあるので改めて提出します』と答えましたが、心の中ではこう思っていました。“あなたに責任追及をする資格があるのか”と」

 日本美術院では4年前にも盗作騒動が起きた。2020年、「第75回春の院展」に出品した宮廻正明東京藝術大学名誉教授(当時)の作品が、ロックバンド、ソウル・フラワー・ユニオンのCDジャケットに使われた写真に酷似していることが発覚。同院は「道義上の責任として看過できない」として宮廻氏に対して役員辞任を勧告し、1年以上の謹慎処分を下した。

 宮廻氏は無断で写真を参考にして絵を制作したことを認めて謝罪。処分を受け入れた。

 約40年間日本画画壇で活動してきた梅原氏は、記憶している限りこれまで盗作問題が大きく持ち上がったのは下田氏と宮廻氏、自分の3件しかないと話す。だが2人と自分の違いをこう訴える。

「2人は模写に近い形で元の写真を盗用していました。そしてその行為を認めました。一方、私に嫌疑がかけられた絵は平凡なポーズの人物画です。たまたま構図が似てしまっただけで私は一貫して否定している。他にも構図やポーズが似ている絵は大量にあります。絵の世界でこのようなことは頻繁に起こる話なのです。それなのに、もっと言い分を聞いて欲しい、証拠を出したいと訴え出ても早々に審議を打ち切られてしまった。このように根拠薄弱な手続で、なぜ私が宮廻氏と同レベルの処分を受けなければならないのか理解できません」

 37年前の話であり単純に比較はできないが、下田氏の騒動が起きた時は日本美術院として特にペナルティを出すことはなかったという。

日本美術院の「閉鎖的体質」

 藝大関係者は、このようなトラブルが起きた背景には日本美術院の閉鎖的な体質があると指摘する。

「もともと権威主義的な組織なのです。藝大至上主義で同人に選ばれる人も藝大出身者が圧倒的に多い。絵の上手い下手よりも偉い先生に気に入ってもらい、いかに引き立てられるかが重要となってくる。創設者の岡倉天心先生、横山大観先生、そして平山郁夫先生といったカリスマ的指導者のもと、こうした閉鎖的体質が醸成されてきた。だから今も理事会を牛耳る一部の理事たちによって、重要な決定が十分な審議が行われないまま下されてしまうのです。画家にとっては盗作画家のレッテルを貼られることは命を奪われるにも等しい処分。もっと慎重に審議すべき議案だったはずです」

 少なくとも下田氏を倫理委員会に参加させるべきではなかったのではないか。下田氏本人に見解を尋ねたが回答はなかった。

 日本美術院と國司氏は「係争中につき取材には答えられない」としている。

 前編【日本画の最高峰「院展」元理事が告発「理事会に“盗作作家”の濡れ衣を着せられた」「偶然構図が似ただけなのに」】では、問題となった梅原氏の作品と元になったと疑われた國司氏の作品との比較、問題が発覚してから裁判に発展するまでの経緯について詳しく報じている。

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