【追悼】「巨人の進撃が景気を刺激するかも」  渡辺恒雄主筆が知人への手紙に綴っていた“キレ味鋭い”文章を公開

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一般的には「傲岸不遜」「強面」といったイメージが強かったが……

 12月19日、渡辺恒雄・読売新聞グループ本社代表取締役主筆が亡くなった。98歳。

 経歴や業績、メディア界・政界・球界におけるエピソードはすでに各メディアで報じられている通りである。今回ご紹介するのは、渡辺氏が付き合いのある人たちに送った手紙である。生前、渡辺氏は定期的に手紙を送っていた。直筆ではなく、おそらくはスタッフがワープロで打った短いものなのだが、自身や巨人の近況から政治経済まで、渡辺氏のその時々の関心事や気持ちが伝わる内容となっている。その一部を見てみよう。
 
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 政界に影響力を持つ大物記者だった渡辺氏が一躍、国民的な知名度を得るようになったのは、読売巨人軍のオーナーとなってからだろう。その時々のトピックについて、スポーツ紙記者らが渡辺氏にコメントを求めると、多くの場合、何らかの刺激的なコメントを出す。自身が取材する側という立場だったことからのサービス精神の発露だったのだろう。

 この発言がたびたび波紋を呼び、また見出しを飾った。

 それら発言のテイスト、巨人軍至上主義的なスタンス、さらには葉巻をくわえた風貌などが相まって、一般的には「傲岸不遜」「強面」といったイメージが強かったかもしれない。

 しかし当然ながら、単に威張っているだけでは政治家に食い込むことも巨大組織のマネジメントもできるはずがない。実は細やかな気配りをする一面があったことはあまり知られていないかもしれない。

星野采配は侮れない

 2013年、巨人がペナント優勝した時の手紙にはこうある。

「巨人軍は、皆様のおかげで今年ペナント・レースで優勝しましたが、なおクライマックス・シリーズ、日本シリーズと二つの嶮山(けんざん)が待っており、特に日本シリーズまで進んだ場合、楽天の田中将大投手の剛腕、星野監督の采配には侮れないものがあり、名将原監督も必死に対戦することと思います」

 心配は的中し、この年、巨人は楽天に3勝4敗で日本一を逃している。最終戦でセーブを挙げたのが「剛腕」田中投手だった。

 この頃、渡辺氏は食中毒で体調を崩していた。同じ手紙にそんな近況報告もマメに書かれている。

「小生の食中毒症状は、ほぼ三週間たった現在、ようやく回復に向かっておりますことをご報告申し上げます。これは子供、老人の場合回復に長期を要することのことで、高齢の方は食べ物にはご注意ください」

 このあとも体調を崩しがちだったようで、約半年後の手紙にも体調についての言及が。

「小生の苦しんでいた腸の憩室炎は、ようやく便通が正常化し、快方に向かっているようです。しかし、昨秋以来、三度の入院で十キロ以上激ヤセし、医師より酒・肉・刺身等を飲食し(ただし、大量の野菜も)太ることを目標にせよとのありがたい指示をいただき、体重六十キロを目指し、治療に励んでおります(小生の肥満時は七十四キロでした)」
(2014年5月15日)

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