巨人の「甲斐拓也」獲得は本当に“最高の補強”か…球団OBが懸念する「打てない捕手」に厳しい“セ・リーグ特有の事情”
「本当にホークスを離れていいのか、自問自答を繰り返しました」──ソフトバンクの捕手・甲斐拓也(32)は12月17日、球団を通じてコメントを発表した。甲斐は国内FA権を行使し、巨人の入団が決まった。「プロ野球を代表する捕手。巨人にとって最高の結果」と高く評価する声は少なくないが、ある巨人OBは「率直に言って、不安の残る補強だと思います」と首を傾げる。
***
【写真】侍ジャパンでバッテリーを組んだ大谷翔平が「甲斐さんありがとうございました!」 WBCの熱戦が蘇るツーショット写真
巨人の阿部慎之助監督(45)が現役時代、捕手から一塁手にコンバートされたのは2015年のことだった。以来、巨人の正捕手は“空席”が続いていた。今季のスタメンを振り返ると、143試合のうち初回に捕手として出場したのは岸田行倫(28)が最多で71試合。小林誠司(35)が38試合で続き、大城卓三(31)が33試合だった。
3捕手の出場試合を合計すると142試合。残り1試合は山瀬慎之助(23)がマスクを被った。ただし大城は一塁手としても39試合にスタメン出場している。さらにクライマックスシリーズのファイナルステージは全6試合のうち岸田が4試合。小林と大城が1試合ずつスタメン出場し、大城は一塁手としても1試合に出場した。
このように巨人は3人の捕手を回しながらシーズンを乗り切り、セ・リーグ優勝を果たした。そして巨人OBで野球評論家の広澤克実氏は、この“捕手3人体制”が現状では最善の策だと評価していたのだ。
実は夏の一時期、「巨人の正捕手には岸田が選ばれた」と思われたこともあった。6月23日から7月27日まで、「捕手・岸田」、「一塁手・大城」というスタメンが常態化していたからだ。より正確に言えば、岸田の代わりに小林がスタメンマスクを被る試合はあっても、大城は一塁に固定された印象が強かった。
“帯に短し襷に長し”
その結果、「岸田が正捕手になる」という報道も散見された。例えば毎日新聞は7月6日の朝刊に「バランス型、岸田の貢献 正捕手アピール6打点 戸郷通算50勝」との記事を掲載している。だが、この評価に広澤氏は異議を唱えていた。
デイリー新潮が7月29日に配信した「巨人の正捕手は岸田行倫で決まりか? FAでソフトバンク・甲斐拓也を獲得する可能性は…広澤克実氏の分析」から、広澤氏の「まだまだ、巨人の正捕手は決まっていないと見るべきでしょう」との指摘を振り返っておく。
《「捕手の能力は守備力、打撃力、リード、そして盗塁阻止率という4つの評価ポイントで測ります。阿部監督が岸田くんを積極的に起用しているのは、打撃が好調ということが大きいでしょう。また大城くんはリードに、小林くんは打撃に難があります。一方の岸田くんは4つの評価ポイントにおいて最もマイナスが少ないとは言えます」》
《「ヤクルトで私のチームメイトだった古田敦也や、中日で活躍した谷繁元信くんといった球史に残る名捕手は、たとえ監督が変わっても正捕手の座を守るだけの安定感と実績を誇っていました。阿部監督が岸田くんに強い期待を寄せているのは明らかですが、もし阿部監督が交代するようなことになれば、小林くんや大城くんが抜擢されても不思議ではありません。3人には依然として長所と短所があり、1人を正捕手として選ぶのは難しいという状態は変わっていないのです」(同・広澤氏)》
野村氏の名言「人を残して一流」
阿部監督が現役時代に付けていた背番号10は甲斐に継承される。監督自身が「ぜひ10番を付けてほしい」と甲斐本人に伝えたことも明らかになった。これほど惚れ込んでいるとなると、広澤氏の《3人には依然として長所と短所があり、1人を正捕手として選ぶのは難しい》という指摘と同じ見解を阿部監督も持っていたのかもしれない。
だが広澤氏はヤクルト時代の恩師であり、プロ野球史に残る名捕手だった野村克也氏の言葉を引用し、巨人がFAで捕手を獲得して正捕手に据えることには反対していた。
《「私は巨人がFAで捕手を獲得するのは、何よりも巨人ファンに失礼だと思っています。阿部監督は巨人史上初となる捕手出身の監督です。ファンは阿部監督が自身の後継者を育ててくれることを期待しています。野村さんは『カネを残すのは三流、仕事を残すのは二流、人を残して一流』と口にしていました。阿部監督はFAで外部の捕手を獲得するのではなく、ぜひとも生え抜きの正捕手を育て上げ、一流の監督になってほしいと思います」》
[1/3ページ]