なぜ「おじさんたたき」コンテンツが人気なのか 「40歳のパーカー」論争も… 鈍感で無神経な男性を「おじさん」とまとめる乱暴さ

エンタメ 芸能

  • ブックマーク

「おじさん」とは誰のことか? 「自分の機嫌は自分で取る」というはやり言葉の問題点

 最近よく使われるなあ、と思う言葉の一つに「自分の機嫌は自分で取る」がある。他人の善意や忖度をあてにしないという姿勢は立派だが、「他人を頼ってはダメ」「自分の機嫌が取れない自分はダメ」と追い詰められた思考に陥る人もいるのではないか。ただでさえ自己責任と言われてきた氷河期世代の男性にとっては、また求められるハードルが上がったと余計にストレスを感じた人がいても不思議ではない。

 自分の機嫌は自分で取ろうと思っているからこそ、楽な服装をする。汗をかいて趣味を楽しむ。狭い空間でしかめ面をするのではなく、なるべく広々と座れる空間を選ぶ。日々アップデートされる価値観に苦戦しながら重ねてきた自分なりの努力が、迷惑だと一方的に否定されたら傷つくことだろう。怒りは悲しみや不安の二次感情というが、妹尾さんや川口さんに向けられている怒号には、報われなかった自己責任社会に抱く辛さや無力感が隠れているようにも感じられる。

 そもそも、「おじさん」とは誰のことなのか。例えば「ぶつかりおじさん」とはいうものの、実際の被害動画を見ると20代のような若者に見える加害者もいる。電車や航空機内で大股開きをしてスペースを取るのも、中年に限ったことではない。鈍感で無神経で、自分のイライラは女性にケアしてもらって当然という感覚の男性のことを、「おじさん」と乱暴にひとくくりにしてしまっていることも、議論が紛糾する要素の一つだろう。

若者にも顕著な自己責任志向 「素敵なおじさん」になるために必要な存在とは

 もっとも、「自己責任」を重んじるのは若い世代も同じ。タイパやコスパを重視し、損や失敗を徹底的に回避しようとするゼロリスク志向は、自己責任社会の行き着いた先と思えなくもない。

 不満はSNSでつぶやくのにとどめる。それは若者なりの、「自分で自分の機嫌を取る」一つのやり方なのだろう。面と向かって注意したら逆上されて危害を加えられるかもしれない。でも被害に遭っても、「危機を予測できず受け流せなかったお前が悪い」と、自己責任だと切り捨てられるだろうからだ。

 動画では「Xにいるおじさんはすぐムキになる」と予言めいた発言も残していた妹尾氏。「素敵なおじになるためには、若い子に張り合わない余裕を持つ」というコメントもあった。自分の機嫌は自分で取る。それは自分に言い聞かせるのならいいが、他人にも強制してはいらぬトラブルを招くというのが、今回の騒動の教訓ではないだろうか。

 自己責任社会でリアルの人間関係にリスクを感じ、ストレスの発散のさせ方に困っている人は年齢を問わず多い。自立とは自分一人で何でもやることではなく、他人に助けを求めることができること、とよく言われる。パーカーを着るか着ないかではなく、港区で稼いでいるかどうかでもなく、弱音を吐ける相手をたくさん持っているといいよ、とアドバイスしておけばよかったのにと思うばかりだ。

冨士海ネコ(ライター)

デイリー新潮編集部

前へ 1 2 次へ

[2/2ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。