「義父とお酒を飲んで涙が出そうに…」 “親の愛”を知らない49歳夫が育った、継母との温もりなき家庭

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おいおい、オヤジ…

 父は家庭のもめごとには知らん顔をするタイプだったから、継母もイライラしていたのではないかと彼は推測する。結局、弟が中学に入るタイミングで、継母と弟は家からいなくなっていた。

「おいおい、オヤジ、どうしたんだよという感じですよね。そのころ僕は大学に入って東京にいました。実家から通えないわけではないけど、理工系の学部だったから実験も多く、大学の近くにアパートを借りていたんです。ある日、実家に戻ってみたら継母と弟がいなかった。父が『ふたりとも出ていった』と。離婚するのと聞いたら、そうなりそうだと。それでいいのと尋ねましたが、父はぼんやり座っているだけでした。あの頃の父は、今の僕と同じくらいの年齢だったと思います。いきなりひとりきりになって、呆然としていたんでしょうね」

 その後、継母と弟がの居場所がわかり、何度か会ったことがあったが、弟はまだ中学生だったし、高校受験などもあり、いつしか疎遠になっていた。

「そして僕は大学を卒業して今の会社に入りました。ときどき弟のことを思い出して、どうしているかなと思ったけど、引っ越したのか連絡先がわからなくなってしまったんです」

「こういうのが幸せというものなんだろうな」

 結婚するとき、紗織さんに育った家庭環境について話をした。彼女はごく普通のサラリーマン家庭で育ち、特に家庭の不和に悩まされたこともなかったから、隆正さんの家庭への繊細な気持ちをわかってもらえてはいない。だが、紗織さんは「あなたと私という組み合わせで、きっといい家庭ができると思う」と笑顔を見せた。妻のまっすぐさについていこうと、彼は決めたという。

「妻の実家で義父と一緒にお酒を飲んだとき、涙が出そうになりました。大人になると父と息子はこういうことができるのか、と。妻には姉がいるんですが、結婚して遠方にいるし、妻もビールくらいは飲むけど日本酒は飲まない。義父は日本酒一辺倒なんです。僕も嫌いじゃないから、行くと『隆ちゃん、こういうお酒があるよ』とお義父さんがお酒を出してくる。お義母さんがおつまみなんか作ってくれて、『もう、おとうさん、飲み過ぎないでよ』と紗織ともども文句を言って……。こういうのが幸せというものなんだろうなと感じましたね」

 結婚したときは隆正さんの賃貸マンションに紗織さんが越してきたのだが、2年後、思い切って妻の実家近くに中古のマンションを買った。子どもができても暮らしていけるようにという配慮で、義父が頭金を援助してくれた。

「これは結婚祝いだから。きみに老後のめんどうをみてもらおうとは思ってない。何のプレッシャーもかける気はないから」

 義父はそう言って笑った。父親というのはそういうものなのかと、隆正さんはまた泣きそうになったという。

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