「義父とお酒を飲んで涙が出そうに…」 “親の愛”を知らない49歳夫が育った、継母との温もりなき家庭

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【前後編の前編/後編を読む】「腹違いの弟」が女性を連れて現れ…49歳夫の幸せな家庭は壊された 「10年後、妻と笑い話にできるかどうか」

 ソニー生命保険株式会社が全国の50歳~79歳の男女を対象に実施した「第12回 シニアの生活意識調査」によれば、「生まれ変わっても今の相手(配偶者)と結婚したいと思う」人は全体の61.6%にのぼった。ところがこれを男女別にみると、男性の71.6%に対して女性では50.8%。女性のほうが20ポイントも低い。

 女性は生まれ変わったら別の男性と一緒になりたいと思っているのだろう。今の夫に不満があるからなのか、あるいはどうせなら別の男性とと考えているのかは定かではない。それを現世で実行してしまうのが「不倫」なのかもしれない。

「うちは平和だと思っていたんですよ」

 大きなため息とともに、そんな言葉を吐き出したのは岩尾隆正さん(49歳・仮名=以下同)だ。長身で細めの体型、めがねの奥の目が優しい。

入学式には誰も来なかった

 彼は30歳のときに社内恋愛していた2年後輩の紗織さんと結婚した。

「僕が育った家庭は少し複雑で、僕が生まれてすぐ両親が離婚したんです。僕は母とともに生活していたんですが、3歳のときに母が再婚、僕が邪魔になったんでしょうか、父の元に戻されたそうです。ほとんど記憶にはないんですが。小さい頃は、父と新しい母と、年の離れた弟の4人暮らしだった。継母は悪い人ではなかったけど、やはり自分の子がかわいかったんでしょう。僕にはあまり手をかけてくれなかった」

 隆正さんが小学校入学直前に弟が生まれた。入学式には誰も来なかった。父は仕事が忙しく、近くに住む父方の祖母が来る予定だったのだが風邪で来られなくなったという。

「おばあちゃんは来るはずだと思っていたけど誰も来なかった。式のあと、みんなは親と一緒にいるのに僕は誰もいなくて、すぐに教室に入りました。すでに先生がいて、何か察してくれたんでしょう。僕の頭を撫でながら『これからよろしくね』と笑ってくれて。そのきれいな久美子先生が、僕の女性観の原点かもしれません」

家庭から逃避

 いつも家庭の居心地が悪かった。彼は弟をかわいがることで、継母の関心を引こうとしたが、長じるにつれて、それもバカバカしくなっていく。学校に行ってぼうっと授業を受け、放課後は図書館が閉まるまで本を読んでいた。

「ときどき、久美子先生が顔を見せてくれました。何の本を読んでるのとか、今、何に興味があるのとか、いろいろ聞いてくれましたね。世の中で僕に関心をもってくれているのは、久美子先生だけだと思いました」

 中学に入るとバスケットボール部に入部、背が高いから勧誘されただけなのだが、これが意外と楽しかった。部活動に精を出すことで、家庭から逃避することができた。継母は食事の支度などはしてくれていたから、疲れ果てて帰宅、ごはんを食べると自室にこもる。そんな生活が繰り返された。

 一方で弟とは仲がよかった。小さいころから「おにいたん」と彼の後をついて歩いていた。継母が買い物に行くときは、いつもふたりで留守番をした。彼が中学生のころ弟が小学校に入学した。学校で困ったことがあると弟は隆正さんに相談する。あとから継母が知って「どうして私に何も言わないの」と怒っていたこともあった。

「今思えば、僕が継母に懐かなかったのかもしれない。継母としてはどう対処したらいいかわからなかったんでしょう。父が再婚したのは、30代半ばで、継母は一回りも年下だった。自分の子だけで精一杯で、僕にまで目がむかなくても不思議はありません。今はそう思えますが、当時は家庭内で浮いていると思っていました」

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