ステージ4の直腸がんでフルマラソン! 「がん共存療法」で生き延びる患者の証言 「何かに集中すれば頭からがんの存在が消える」

ドクター新潮 ライフ

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「ケトン食は一石二鳥」

 特筆すべきなのは、体が低糖質状態の時に高脂肪食を取ると、抗がん効果が期待できる「ケトン体(β-ヒドロキシ酪酸など)」という物質が体内で生成されることだ。

 がん細胞は夜間に活性化するため、夕食後に中鎖脂肪酸100%のMCTオイルをコーヒーや紅茶などに入れて飲む。すると数時間後には血中のケトン体濃度が極めて高くなり、山崎さんの場合は通常の値の20~30倍になるという。

 前出の東島さんが言う。

「食事療法ががんに効くのならと思い、臨床試験を受けてみることにしました。実は、糖質制限やケトン食は一部のトップアスリートがランニング能力を高める食事法として取り入れており、関心を持っていました。私にとっては、まさに一石二鳥なんです」

 体がケトン体質になることによって、運動機能への効果も期待できるというのだ。

 東島さんは、昨年6月から被験者として臨床試験に参加した。糖質制限を始めて2カ月後の昨年8月、札幌市で行われた北海道マラソンに出場した。タイムは4時間半を超え、東島さんとしては振るわなかったが、体の状態に明らかな変化が起きたという。

「糖質制限下での初めてのフルマラソンでしたので恐る恐る走りました。これまでは30キロ地点ぐらいで足が重くなって、歯を食いしばりながらゴールするというパターンでした。ところが、北海道マラソンではゴール後もまだまだ走れるくらい体力的に余裕がありましたし、翌日の筋肉痛も全くなかったんです」

「患者さんの体を衰弱させない」

 その後、東島さんが記録を伸ばしていったことはすでに記した通りだ。山崎さんとしてもわが意を得た思いだろう。山崎さんは言う。

「がん治療医の先生方から『糖質制限なんかしたら体力が低下して、がんと闘えなくなる』との批判を聞きます。しかし、適切に管理された『糖質制限ケトン食』は患者さんの体を衰弱させないことを、東島さんが実証してくれています。あれほどハードな運動をしながら、アルブミンの値も一定なのです」

『「糖質過剰」症候群』(光文社新書)の著者で、マラソンランナーでもある医師の清水泰行さんが解説する。

「体がケトン体質になると、持久力が桁違いに上がります。まだはっきりと分かっていないこともあるのですが、血液中のケトン体には抗炎症作用と抗酸化作用があるため、体の炎症が起きにくく、筋肉のダメージも少ないので疲れからの回復が早くなると考えられます」

「LDLコレステロール値が高いほど、がんの発生率が低下」

 清水さんもステージ4のがんで手術ができないケースであれば、糖質制限ケトン食によってがんの「無増悪生存期間」の延長を目指す治療法は合理的だと見る。

「例えば、糖質制限をするとLDLコレステロールが上がることも少なくはありません。よく悪玉コレステロールといわれていますが、私はそうは思いません。実はLDLコレステロールの値が高いほど、がんの発生率が低下することが分かっています。私としては、できる限り早く糖質制限を始めればがんの予防になると考えます」

 ケトン体をエネルギーにすることで、東島さんのマラソン人生は「次の段階」に移行したのかもしれない。思考も前向きだ。直腸がん摘出手術後のストーマの装着は、当初は大きなショックだったにちがいないが、いまではこう話す。

「ストーマになったらもう人生終わりだと思う人が多いようですが、私にはまったく当てはまりません。運動制限は特になく、ランニングも問題ありません。むしろ利点があって、便意というものがないし、便を我慢する必要もないんです」

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