ステージ4の直腸がんでフルマラソン! 「がん共存療法」で生き延びる患者の証言 「何かに集中すれば頭からがんの存在が消える」
経過観察のまま2年
だが、がんの縮小効果は得られず、20年1月、直腸及び周辺リンパ節の摘出手術とともに肛門を閉鎖。ストーマ(人工肛門)を造設した。21年1月には両側の肺に多発転移が認められ、がんの最終段階であるステージ4と診断された。転移したがんの数が少なければ手術で切除することも可能だが、多発性の場合は困難だ。医師からは次の段階の抗がん剤治療を強く勧められたが、東島さんは応じる気にはなれなかった。
「最初の抗がん剤治療の時に副作用の下痢がひどく、体重がどんどん減ったんです。私にとって生活の中心であるランニングができなくなるような治療は、できればやりたくない。はっきりと断わらずに、返事を先延ばしにしてずっと経過観察にしてもらっていました。医師から『治療をしなければ余命1~2年ぐらい』と言われました」
“経過観察”のまま2年が過ぎたある日、東島さんはインターネットを検索していると、ある動画配信の情報に目が留まった。緩和ケアの第一人者である山崎章郎(ふみお)医師(77)=ケアタウン小平クリニック名誉院長=が実践している「がん共存療法」を紹介する内容だった。
「がん共存療法」とは、現在、ステージ4の大腸がんで闘病中の山崎さんが自ら考案した治療法である。抗がん剤の激しい副作用に苦しんだ山崎さんは、途中で治療を断念。標準治療に代わる新たな治療法を模索することにした。
「糖質制限ケトン食」
代替療法に関する情報が氾濫する中、多くの文献やデータを吟味し、理論的にがん抑制に効果があると思われるものを取り入れていった。もちろん、安全で安価であることが前提だ。詳細については、山崎さんの著書『ステージ4の緩和ケア医が実践する がんを悪化させない試み』(新潮選書)、または本誌(「週刊新潮」)24年7月18日号の記事などを参照していただくとして、ここでは概略を簡潔に説明する。
がん共存療法は、食事療法の「糖質制限ケトン食」をベースに、既存の薬やサプリメントなどを組み合わせた治療法だ。がん細胞が増殖するための主な栄養源である糖質の摂取を1日50グラム以下に制限し、その代わりに高脂肪、高タンパク質の食品を取るようにする。
必須脂肪酸の一つでサバやイワシに多く含まれるEPA(エイコサペンタエン酸)や、ビタミンDもがん抑制効果があるとして、サプリメントで補う。さらに、糖尿病治療薬のメトホルミンを追加した。血糖値の上昇を抑え、がん細胞を増殖させる働きがあるインスリンの分泌を抑制するばかりでなく、メトホルミンそのものにも抗がん効果があることが分かってきているからだ。
ステージ4診断から5年以上が経過したが……
メトホルミンやビタミンD、EPAを併用したこの「MDE糖質制限ケトン食」療法は、がんの進行によって「クエン酸療法」や「少量抗がん剤治療(経口薬)」などを追加していく。山崎さんはステージ4と診断されて5年以上が経過したが、いまも転移病巣は縮小状態を維持している。
昨年1月から、大腸がんの術後で肺や肝臓に転移のあるステージ4の患者を対象に、聖ヨハネ会桜町病院(東京都小金井市)で臨床試験を実施している。
現在、「がん共存療法」の臨床試験に参加している被験者は7人。血液検査では、栄養状態の指標である血中タンパク質の「アルブミン」が7人とも正常値を保っており、体調は良好だという。7人中4人は、CT検査でもがんの増殖はそれなりに抑制され、「無増悪生存期間」は標準治療の中央値と比較しても遜色なく、山崎さんは「手応えを感じている」と強調する。
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