ステージ4の直腸がんでフルマラソン! 「がん共存療法」で生き延びる患者の証言 「何かに集中すれば頭からがんの存在が消える」
「まさかステージ4のがん患者が走っているとは誰も思わないでしょうね」
2023年10月29日、茨城県水戸市で開催された「水戸黄門漫遊マラソン」に参加した東島さんに同行した。レース後、カメラを向けると疲れた表情も見せずに「体力的にも余裕を持ってゴールできた」と語り、完走者に贈られる記念メダルを誇らしげに掲げた。
5年ぶりに「サブ4」を達成したとあって、東島さんの表情はいっそう明るかった。サブ4とはフルマラソンを4時間以内で走り切ることで、上位20%程度の人しか果たせないとされている。それどころか、3時間54分36秒というタイムは自己ベストだったと気付く。その後も好調を維持し、12月3日の神奈川・湘南国際マラソン、同月17日の栃木・はが路ふれあいマラソン、今年1月28日の千葉・館山若潮マラソンでも自己ベストを次々と更新したのだ(最高タイムは3時間48分45秒)。
驚くべきことは、いま東島さんの体はがんに侵されているという事実だ。マラソンはハードな競技であり、健康な人でも始めるにあたっては一定のトレーニング期間が必要だろう。東島さんは「まさかステージ4のがん患者が走っているとは誰も思わないでしょうね」とこともなげに笑う。
単身赴任中に見つかった直腸がん
東島さんに直腸がんが見つかったのは、19年3月のことだ。東京に本社を置く総合化学メーカーに勤めていたが、当時は東海地方の支社に単身赴任中だった。実は、会社の健康診断で受けた便潜血検査では何年も前から陽性反応が出ており、便が細くなるなどの自覚症状もあった。
「仕事が忙しかったことや単身赴任中で家族に検査結果を知られなかったこともあって、つい放置してしまっていたんです。ようやく大腸内視鏡検査を受けたところ、肛門のすぐ近くに大きながん細胞が見つかったのです。ポリープがあるくらいだろうなと軽く考えていましたから、ショックでした。家族に何て言おうか。俺はもう死ぬのかとの思いが頭を過(よぎ)りました」
東島さんの妻は「あなたの病気は私が治す」と言って病院探しから、がんに効くという民間療法までさまざまな情報を集めた。早期の手術を勧める医師もいたが、「まずは、放射線と抗がん剤治療でがんを小さくしてから手術をしましょう」と説明したいまの主治医の方針に納得し、治療を受けた。
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