誤字・脱字がなくて引用も的確、なのだが…最近の大学生「文章のレベルが高すぎる」問題とは

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指示を工夫する重要性

 その一方で、最新のテクノロジーが登場すると、「そのテクノロジーを使いこなすのが各々のオリジナリティである。むしろ社会の進歩のためには、そのテクノロジーを使いこなす人材が求められる」という意見が出る。

 生成AIにしても、AIへの指示の仕方により、答えは変わってくるわけで、AIを使いこなす時代に各人のオリジナリティは発揮できるし、「的確な指示ができる」人材がこれからは求められるということかもしれない。先日、AIへの指示についてライターのヨッピー氏が話していたことが印象深い。

「某チェーン店のオリジナルキャラを生成AIに作らせる仕事をしたのですが、いかにして指示をするか、という工夫の重要性を知りました。一緒にやっている仕事仲間は生成AIをうまく使うのですが、『今もらったキャラは70%の出来栄え。これまでの指示に沿って100%に近付けるようにして』と指示をすると、確かにそのキャラが良くなるんですよ」

 確かにこれはパソコンを上手に使いこなすものと同じ感覚だが、果たして教育現場でこの姿勢は相応しいか。仕事でブラッシュアップするために生成AIを使うことは有用だが、教育現場ではまだ抵抗感を抱く人もいる。これが非常勤講師であるA氏の感覚なのだ。

問題解決力

 これと似たようなことが2011年2月の京都大学の入試で発生した。受験者が質問サイト「ヤフー知恵袋」に、数学と英語の問題の一部を試験時間中に投稿し、回答を募ったのだ。これがバレ、けしからん! という声がネットには多数書かれたが、ブロガーのちきりん氏はツイッター(現X)でこう投稿した。

「この『ネットワーク&ITの時代において問題を解く力』がある学生を入学させたいなら、こういう人まさに合格させるべきな気がする」

「もう『自分の頭の中に、答えを保存してるかどうか』みたいなスタンドアロンな知識の保存方法だけを評価する必要はないよね。『どうやったら世界から答えを見つけてこれるか』という力こそが問題解決力じゃん」

 テクノロジーの進歩に合わせた問題解決ができる人物こそ優秀、という意見だ。いや、京大が定めた「その場で自分の頭で解け」というルールを逸脱した行為だし、別に「ネットで救いを求めて正答を得よ」という問題ではないでしょうが。よって京大が求める人材ではないのですよ。しかも、カンニングがバレたわけだから、その点でも優秀ではない。もしも入試が「今からネットを使っても構わないからこの問題を解け」とやったのであればまったく問題はない。

生成AIで作成された文章を見破るAI

 あくまでもこの件はただのカンニングであり、擁護すべきではないし、批判する人間を時代錯誤な人間扱いをする必要もない。

 あれからもうすぐ14年となるが、未だに多くの大学はスマホを使っての受験を実施していないから、ちきりん氏の擁護はまだ認められていないということだ。テクノロジーについては、大学生のレポートや卒論でのコピペが問題視され、「コピペルナー」というコピペを発見するツールを2008年に金沢工大知的財産科学研究所所長・杉光一成教授が開発し、コピペ対策に使われるようになった。

 こうなると、今後は「生成AIで作成された文章を見破るAI」も登場するかもしれない。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ、佐賀県唐津市在住のネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』『よくも言ってくれたよな』。最新刊は『過剰反応な人たち』(新潮新書)。

デイリー新潮編集部

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