アカペラは「実は即興性がゼロ」、ゴスペラーズが藤井フミヤに驚かれた楽屋での一コマとは? 新アルバムに込めた想いも吐露

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2024年はアニメ出演に記念のEPやライブと大忙し。新作に込めた想いとは

 ここからは、’24年の活動について語ってもらおう。

 まずは、『アカペラ侍~ハモリ隊が江戸を救う~』で羽守隊(はもりたい)としてアニメ内で5人の侍が江戸の平和を守るためアカペラを披露するという、声優兼歌手に挑戦していることに注目したい。 演劇的な演出でのライブも数多く実施してきたからか、歌声はもちろん、セリフもかなり自然で、初挑戦とは思えないほどだ。

黒沢「これは、われわれがデビューした時からお世話になっているテレビ局のプロデューサーの方からお話をいただいて。まさか、自分たちがアニメになるなんて夢にも思わなかったです」

酒井「実はあれ、アテレコしているんじゃなくて、僕らがアカペラで歌ったり、セリフを喋ったりしているものに合わせてアニメ画を動かしてくださっているので、素晴らしいのは僕たちじゃなく、画の技術の方なんです(笑)」

 そして、11月にはメジャー・デビュー30周年記念のEP『Pearl』がリリースされた。収録の5曲は、すべてゴスペラーズのメンバーが歌詞(歌詩)もメロディーも手がけている。新曲は、常に新たな扉を開けて近未来へ進んでいくようなポップスの「F.R.I.」、少し聴いただけでも彼らの真骨頂と分かるラブ・バラード「パール」、フィンガースナップやメロウな歌声と打ち込み音の対比が印象的なミディアム調の「Dear my girl」、そしてライブで歌われる景色が浮かぶ上質なパーティー・ソングの「24/7」と、どれも彼らの確かなキャリアを感じさせる。

酒井「その前に作った5曲入りEPの『HERE & NOW』は全曲提供曲で、その前の『The Gospellers Works 2』も提供曲のセルフカバーだったので、今度こそはすべて自分たちで作ったもので行こうと思いました」

黒沢「例えば、1曲目の『F.R.I.』は、僕がコード進行や全体のトラックを提示したら、酒井と北山が面白がってくれて、歌詞やメロディーを加えていくというスタイルで完成したので、3人の共同名義となっています」

 ちなみに、ゴスペラーズの中で「作詞」ではなく「作詩」となっている楽曲(本作の2曲目「パール」と3曲目「Dear my girl」)は安岡 優が手がけたもので、単体でも鑑賞できる歌詞ゆえに「作詩」と表しているそうだ。

 続いて、5曲目の「東京スヰ―ト 2024」は、もともとシングル「ひとり」のカップリングに収録されていて、現在Spotifyでも15位と、ヒットシングルと並ぶほどの人気曲の再録音版だ。オリジナルは5分だったのに、今回は、なんと8分を超える大作となっている。

黒沢「8分超えなんてライブさながらですよね。しかも、今回は過去のライブでとても心地よかったビッグバンドのアレンジで歌っています。でも、ずっと同じコード進行だから、演奏するミュージシャンの方々は、途中でどこをやっているのか困惑しがちで大変そうでした」

酒井「この曲はファン投票を実施すると、だいたい1位になる曲で、日本のポップスには珍しく、延々と同じコードで掛け合いしながら盛り上がっていく歌なんですよ。だから、いつまでも終わらず、とってもしつこい(笑)。でも、ずっと愛されてライブのたびに変わってきた曲が、こういった周年のタイミングで、記念撮影のようにパシャっと保存されるのは感慨深いですね」

 さらに、12月にはシングル・カップリング・コレクションBOX『G30 -Beautiful Harmony 2-』がリリースに。

酒井「僕らは、メンバー内でシングル曲を募集する際に全員が書くので、惜しくも表題曲に選ばれなかった、でもずっと心に残っている……という曲が多いんですよ。そのなかでも、せっかくシングルを買ってもらうんだからと、表題曲と遜色ないよう気合いを入れて作ったものを全曲収録しました。これまでのアルバムには入ってない楽曲が多いので、これを機にまとめて聴いてください!」

 最後に、サブスクで初めて(あるいは久しぶりに)ゴスペラーズを聴いた方へのメッセージをお願いすると、

酒井「僕は、この第33位にある『言葉にすれば』という曲が、合唱曲として歌い続けられていることが嬉しいですね。いろんなきっかけでゴスペラーズの曲を聴いてもらえているのだなと。そのために、僕らも“古いアーティスト”にならないように努めています」

黒沢「僕らって、これまで納得いかずにリリースして後悔したものは1曲もないんですよ。毎回、必ずみんなで合意を取って、これでいこうって、どの曲も手抜きをしていない。だからぜひ、ストリーミングで掘り下げて聴いてもらいたいです。聴いている方の生活を彩るような曲が必ず見つかると思いますし、ヒットしたかどうかに関係なく、お気に入りを見つけてもらえたら嬉しいですね!」

 こうしてお話を伺っていると、ゴスペラーズは楽曲制作も、楽曲のレパートリーや歌い方のバリエーションについても非常に考え抜いている。そしてもちろん、ライブ・パフォーマンスにも常に全力投球しており、そのバイタリティに驚かされるばかりだ。しかも、メンバー全員が50代で、すでにアルバムのミリオンヒットも経験しているのに、謙虚に新たな挑戦をし続けているのにも胸を打たれる。近年は、ダンスの振付けや、曲の一部を切り取ったフレーズの面白さでバズって短期的にヒットするものも多いが、細部にまでこだわったゴスペラーズの音楽は、何回聴いても新たな魅力を発見させられる。そういった音楽業界の良心を象徴する存在ゆえに、今後も彼らの更なる活躍を願っている。

(取材・文:人と音楽をつなげたい音楽マーケッター・臼井孝)

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 全3回でお届けしたゴスペラーズ黒沢 薫、酒井雄二インタビュー。【インタビュー第1回】ではヒット曲「永遠に」「ひとり」を中心に、【インタビュー第2回】では、彼らの人気を支えるカバー曲について語ってもらった。

【INFORMATION】
◎30周年記念EP「Pearl」発売中
■収録曲
1. F.R.I. [作詞・作曲:黒沢 薫、酒井雄二、北山陽一 編曲:Sam is Ohm]
2. パール [作詩・作曲:黒沢 薫、北山陽一、安岡 優 編曲:Joshua Leung]
3. Dear my girl [作詩:安岡 優 作曲:村上てつや、酒井雄二、妹尾 武、K-Muto 編曲:K-Muto]
4. 24/7 [作詞・作曲:村上てつや 編曲:本間将人]
5. 東京スヰート 2024 [作詞・作曲:村上てつや 編曲:笹路正徳]

◎30周年記念カップリングコレクションBOX 12月18日(水)発売
■30th Anniversary Coupling Collection BOX「G30 -Beautiful Harmony 2-」
全シングルのカップリング曲をすべて収録したカップリングコレクション。シングル曲同様に長く愛され続けている名曲達をリマスタリングでコンパイル。全60曲CD5枚組のカップリングコレクションBOX。

◎30周年記念ライブ開催
■ゴスペラーズ30周年記念祭@日本武道館
2024年12月20日(金) OPEN 17:30 / START 18:30
2024年12月21日(土) OPEN 16:00 / START 17:00

■ゴスペラーズ30周年記念祭@大阪城ホール
2025年1月13日(月・祝) OPEN16:30 / START 17:30

どちらも全席指定 ¥10,000(税込)。詳しい情報は特設サイトにて

【ゴスペラーズ プロフィール】
村上てつや(’71年生まれ)、黒沢 薫(’71年)、酒井雄二(’72年)、北山陽一(’74年)、安岡 優(ゆたか)(’74年)からなる5人組ボーカル・グループで、メンバー自ら作詞、作曲、編曲も手がけることも。
‘91年、早稲田大学のアカペラ・サークル『Street Corner Symphony』内で結成され、メンバーチェンジを経て、現在のメンバーに。’94年12月21日、シングル「Promise」でメジャーデビュー。’00年8月のシングル「永遠(とわ)に」がロングセールスを記録し、’01年3月のシングル「ひとり」でアカペラ作品としては日本音楽史上初のベスト3入りを果たし、初本格的にブレイク。以降、「星屑の街」「ミモザ」などヒット曲多数。他アーティストへの楽曲提供、プロデュース、ソロ活動などでも才能を発揮し、日本のボーカル・グループのパイオニアとして活躍中。

臼井孝(うすい・たかし)
人と音楽をつなげたい音楽マーケッター。1968年、京都市生まれ。京都大学大学院理学研究科卒業。総合化学会社、音楽系の広告代理店を経て、'05年に『T2U音楽研究所』を設立し独立。以来、音楽市場やヒットチャートの分析執筆や、プレイリスト「おとラボ」など配信サイトでの選曲、CDの企画や解説を手がける。著書に『記録と記憶で読み解くJ-POPヒット列伝』(いそっぷ社)、ラジオ番組『渋谷いきいき倶楽部』(渋谷のラジオ)に出演中。データに愛と情熱を注いで音楽を届けるのがライフワーク。

デイリー新潮編集部

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