ドン・ファン裁判で元妻に“無罪判決”の衝撃…元検察官の弁護士が「無罪もありうる」と予感した“第5回公判”での決定的証言

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 妻は2018年4月、スマホで「覚醒剤 死亡」と検索。さらに「妻に全財産残したい場合の遺言書文例 遺言書」など、不穏な用語をスマホに入力し続けた。夫は5月24日に急性覚醒剤中毒で死亡。事件が明るみになると、多くの人が検索履歴と夫の死亡との因果関係を疑った。だが和歌山地裁の裁判員裁判は12月12日、夫だった野崎幸助氏に対する殺人罪などに問われた元妻・須藤早貴被告に無罪判決を下したのだ。

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 12日の午後1時40分過ぎに報道機関が相次いで「紀州のドン・ファン裁判で無罪判決」との速報を配信すると、ネット上では驚きの声が上がった。元東京地検特捜部副部長で弁護士の若狭勝氏も「無罪判決が出たという点に限れば、私も驚きました」と言う。ただし公判中に「無罪判決が出るかもしれない」と予感した瞬間があったそうだ。

「10月21日に開かれた第5回公判で、野崎氏と約20年前から交際していた女性が証人として出廷しました。そして野崎氏が須藤被告と結婚した後、電話で『覚醒剤やってるで、へへへ』と言ったと明らかにしたのです。野崎氏は『冗談のような口調』、『ふざけている口調』だったそうですが、むしろ、そのような口調のほうが本当のことを打ち明けている、ということはあり得ます。私はこの証言が出たことで『無罪判決もあり得る』と考えました。なぜなら検察側の主張は『野崎氏は一度も覚醒剤を使ったことがない』ことが大前提になっており、それに疑念が生じたからです」

 ご存知の通り、検察側は丁寧に状況証拠を積み重ね、須藤被告の有罪を立証しようとした。裁判の様子はメディアがリアルタイムで詳報し、検察側の主張に説得力を感じた人も多かったに違いない。

自信を持っていた検察

「ところが裁判の流れによって、有罪だと判断する材料としての“状況証拠”の評価が正反対になってしまうことがあるのです。裁判官も裁判員も『被告が人を殺めたのは事実だ』と確信すれば、全ての状況証拠は有罪を補強するものとして解釈されます。一方、『被告が人を殺めたかどうか分からない』と悩みながら状況証拠を検討すると、むしろ無罪を示唆するように思えることもあるのです。今回の裁判で検察側は『須藤被告はどうやって野崎氏に覚醒剤を摂取させたか』を立証することはできませんでした。殺害行為の核となる事実が明らかにならなかったため、状況証拠から有罪ではなく無罪が導き出されたのではないでしょうか」(同・若狭氏)

 検察側は立証に自信を持っていたようだ。若狭氏は「実は家族間の殺人事件で無期懲役の求刑は、それほど多くはないのです」と指摘する。

「11月18日に行われた求刑公判で検察側は『遺産目当ての犯行は強盗殺人と同程度の悪質さで、被告に反省も認められない』と指摘し、無期懲役を求めました。厳しい求刑は一般的な夫殺しより悪質と判断しただけでなく、検察が有罪だと自信を持っていたことも意味します。そのため無罪の判決には相当なショックを受けているでしょう。また懲役10年や20年といった有期懲役刑が無罪になるのと、無期懲役に無罪判決が下るのでは意味が大きく異なります」(同・若狭氏)

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